時代遅れな農産物の販売方法
他の食品であれば、消費者が商品の情報を消費するなどというのは、常識中の常識です。例えば、1981年に生まれた私が小学生の頃は、ビックリマンチョコがはやっていましたが、この商品を買っていた子供たちのほとんどは、ウエハースチョコレートそのものには興味がありませんでした。というより、食べずに捨てていた子もいました。欲しかったのは、ビックリマンシールに描かれた「情報」だったのです。
他の食品においては、「食品」の概念さえも変更しなければならないような消費のされ方をしています。例えば、コカ・コーラゼロに代表されるゼロカロリー食品を考えてみてください。コカ・コーラゼロが日本で発売されたのは2007年。それまで発売されたダイエットコークなどとは異なり、日本社会に大きく受容され、そして定番商品として定着していきました。
それどころか、13年にサントリーから発売されて大ヒット商品となった「伊右衛門 特茶」のように、体内においてカロリーが機能しないこと、すなわちマイナスカロリーを積極的に謳う商品さえ当たり前になりました。サントリーの「特茶」は特定保健用食品と呼ばれますが、似たような分類である機能性表示食品の定着から分かるのは、人々が食品に対してカロリーや栄養を求めるだけではなくなっている、という事実です。
これらの事例を見れば、農作物の販売方法がどれだけ時代に取り残されているかが分かるはずです。野菜に限って言えば、情報を消費するどころか、いまだに大半の商品が栄養摂取の範疇さえ乗り越えていないのです。
品種名や作用が書かれている農作物はまだまだ少数
「野菜や果物はコーラやお茶のように成分調整などできないでしょ?」と思う方もいるかもしれません。しかし、今や農業界では、イチゴやトマト等には葉に糖を与えたり、根っこに食用の酸の成分を与えたりして味の調整をするのは全く珍しいことではありません。自動天窓、重油暖房や冷房を用いた温度調整、電照を用いた日光・温度補正、機材を用いた光合成の促進等は、農家にとってはごく当たり前のことです。
イチゴやトマトでは、葉が光合成をすることで糖分を作り出すため、梅雨時のように雨が続き温度が低い時期には甘みが乗りません。甘みを重要視する品目においては、糖度が足りない商品は致命的です。一方、甘いだけの作物に重層的な味わいを持たせようとする時、酸味を加えるのは有効な手立てです。このため、敢えて酸を吸わせたりもするわけです。
私は、これらの作業を批判するつもりは毛頭ありません。消費者の求めに応じられなければ商品が売れないのはどの業界でも一緒だからです。私がここで指摘したいのは、農作物においても成分調整はもはや常識なのに、小売の現場では価格と生産地以外には大した情報が書かれていない、ということです。
それでもイチゴ、トマト、ブドウなどの品目は品種名や商品名などが書かれていることが多くあります。また、ブロッコリースプラウト等ではスルフォラファンの作用(抗酸化・解毒機能)などが謳われていることもあります。しかし、このような事例は農産物全体で言えば圧倒的に少数なのです。