説明責任・ビジョン提示型の選択という決意が本物だったとしても、懸念材料が残る。ビジョン策定には衆知を結集する「長い耳」が不可欠だが、幅広い人脈ネットワークが備わっているかどうか。付き合いの長い山田宏が評している。
「本人の性格で、どちらかというと、引っ込み思案というか、どんどん人脈を広げるというタイプではない。情報網が狭くなりがち。ブレーンも多いとは言えない。好きな人とだけでなく、好き嫌い関係なく自らの目となり、耳となる人たちをどれだけ周囲に集めることができるか。その人たちの話を嫌がらずに時間を割いて聞くかどうかでしょう」
似ているといわれる小渕を、中曽根康弘元首相は「真空総理」と評した。中が空洞で正体不明という意味にも受け取れるが、中曽根は真空という言葉で「なんでも吸い込む吸引力」と強調した。「どん底」で船出した小渕内閣は、統合型首相の「吸引力」によって、金融危機対策では民主党案を丸呑みし、自由党や公明党を吸い込んで衆参ねじれも克服する。1年後に政権は絶好調となった。
同じ統合型リーダーの野田が「危機の時代」の指導者、「無力政治」追放の旗手となりうるかどうかは、「脱安全運転」への転換とともに、「長い耳」と「吸引力」がカギではないか。
(文中敬称略)
※すべて雑誌掲載当時