一方で、野田佳彦はライバル不在などの好条件に助けられ、12年9月の代表選までの政権維持は可能という分析もある。岡田克也(前幹事長)は力量不足が露呈して再出発となった。前原誠司は代表選敗北の傷が癒えていない。小沢一郎は裁判と党員資格停止を背負い、身動きが取れない。小沢の「知恵袋」といわれる平野貞夫(元参議院議員)も言う。
「野田政権になって、小沢さんも『いいバランスだ』と言っている。一挙にひっくり返すようなことはしないよ」
このまま用意周到さと安全運転に徹すれば長期続投もという見方もあるが、政権の生死を決めるのは、ねじれ国会や民主党の党内事情ではない。国民の支持・不支持の動向がポイントとなる。
当面は三重苦克服が最優先だから、国民は野田の安全第一路線をひとまず容認し、様子を見ているが、やがて指導力不足の愚図首相と見限り、支持離れが始まるかもしれない。すでに始まっている内閣支持率続落は失望の表れとも映る。
野田に課せられた最大のテーマは「無力政治」の打破だ。「危機の時代」の指導者の要件を備えているのかどうか。
野田は月刊「Voice」10月号所収の「わが政治哲学」と題する論考で、大平正芳元首相の一般消費税導入の覚悟を取り上げ、「やらねばならぬことを国民にきちんと説明し、理解してもらおうとした気概には、いま大いに学ぶべきだ」と書く。さらに「田園都市構想研究」など9つのテーマについて、大平が国の新しい展望を示そうとした点に触れ、「混迷の時代を切り拓くために、政治は大きなビジョンを」と付記している。
国民に向かって説明責任を果たし、一方で時代を切り開く新しいビジョンを提示する取り組みは、安全運転優先とは対極の姿勢だ。野田は当面の課題の処理に一区切りがつけば「脱安全運転」に転換する方針なのか、それともただの願望とその場しのぎのポーズにすぎないのか。