代表制度の改革に必要な三つの観点

民主主義を競争=選挙とすることで政治エリートのリーダーシップを民主的なコントロールから解放すること。これがシュンペーターのモデルの狙いであった。そんな彼のモデルに欠けているものを考えることで、政治エリートとしての代表者を民主的なコントロールの下に置く手掛かりの見当をつけることができる。

これについては、シュンペーターのモデルに対して繰り返されてきた批判が参考になる。それによれば、シュンペーターのモデルには、二つのきわめて重要な政治的活動が欠如している。その一つが市民の参加であり、もう一つが市民の間での熟議である。

そこで本記事では、代表制度に市民参加と熟議という活動を組み込むことで、現行の代表制度を民主主義の制度として再建するための実行可能な具体策を検討する。その際、市民という言葉を多用する。民主主義のイノベーションでは、人びとは公共の制度を利用しつつ、特に政治的活動にコミットする主体としての役割、すなわち市民としての役割を担っているからだ。そこで、まずは具体策を評価するための三つの観点を提起することから始めよう。

代表制度の改革では、何より、権力の私物化を禁じ、専制政治に対抗するための具体的な取り組みにフォーカスする必要がある。冒頭で述べたように、近代に誕生した民主的な代表制度の核心には、人民主権論に基づいて立法権力が法律をとおして政府による権力行使──執行権力の行使──を民主的にコントロールするという構想が存在していた。そして、その構想を政党と選挙によって具体化することで、反私物化による専制政治への対抗という民主主義の理念が実現すると考えられた。

しかし、こうした試みを成功させる条件は喪失されており、もはやうまくいかない。したがって、政党政治の下での選挙に加えて、市民参加と熟議をベースにした新たな取り組みが、私物化を防ぎ専制に対抗するために不可欠となっている。

代表制度を民主化する二つの方向性

多くの民主主義国ですでに着手されているそうした試みを参考にすると、現行の代表制度をさらに民主化する取り組みには二つの方向性があることが分かる。第一が、重要な決定に市民が直接参加することによって、市民の政治的決定権力を強化する方向性である。第二が、市民が直接、代表者を監視し、説明責任を果たさせるという方向性だ。代表者の民主的コントロールはこれらの二つの方向性で強化され始めている。

国家の独立などの主権に関わる決定や憲法改正、選挙制度改革など政治的な重要度がきわめて高い争点に関して市民の声を直接聞くという取り組みは近年、増えている。しかも、国家や州といった大規模な政治体において実施され始めている。これは第一の方向性に従った取り組みだ。

2014年のスコットランドのイギリスからの独立を問うた住民投票やEUから離脱の是非をめぐり2016年に実施されたイギリス国民投票──いわゆるブレグジット──は日本でも話題となった。

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ただ注意すべき点がある。近年のそうした試みの中のいくつかのものは、代表制度を迂回し、市民の生の声を直接政治的決定に反映させようとしているだけではないということだ。そこでは、十分な情報に基づいた議論を経た上での理に適った市民の判断を政治的決定に反映させようとしている。このため、レファレンダムを実施する前に市民間の熟議の手続きが設けられている事例が少なくない。

また、たんに代表制度を迂回するのではなく、政治家たちと協働し、代表制度を活用する工夫もそこには見られる。いずれにせよ、この方向性は、現行の代表制度では近代民主主義の人民主権的構想を十全に実現することが不可能となったという現状認識から生じている。その上で、主権者の意思に基づいて政治を行うというこの核心的構想が、新たな仕組みで再活性化されているといえる。

第二の方向性は、いわゆる「カウンター・デモクラシー」と関連する。カウンター・デモクラシーとは、代表制度への全般的な不信が行き渡った現代において、政治権力を行使する者たちを投票以外の方法で民主的にコントロールするための制度や活動を意味する。それは、監視、差し止め、そして審判の三つの形態から構成されている。これらの形態は、古代アテナイの民主主義を支えた500人評議会や民会、そして民衆裁判所に確認できるものである。

他方で、近代以降の民主主義では、政府から独立した専門家委員会や民間のさまざまなアドボカシー・グループ──専門的な政策提言をしたり、ロビー活動をしたり、メディア・キャンペーンをしたりする利益集団──、市民組織による監視活動や、ストライキやデモによる直接行動による拒否権の表明、弁護士や市民による行政裁判の実施などが盛んに行われてきた。

これらの活動は、政治権力を行使する者に対して情報公開と説明責任を課し、政治責任を明確にさせ、必要があれば処罰を迫る。世論に対して常に敏感であるように代表者に対して求めることによって、民主的なコントロールの強化を目指しているのだ。

このように、現行の代表制度を民主主義の制度として再建するための実行可能な具体策は、何よりも権力の私物化を禁じ、専制政治に対抗するためにどの程度有効なのかという観点から検討される必要がある。