選挙が民主的代表制度の機能を果たす条件

そもそも、民主的な代表制度の下で選挙が持つ基本的な機能は何か。それは、議会において国民に共有された意思に従い法律を制定し、それに基づいて政治を行う国民の代表者を選出することである。

しかし、近代において選挙が民主的な代表制度の手続きとしての機能を十分に果たすには、少なくとも次の二つの条件を満たす必要があった。一つは、平等に参政権が与えられること。もう一つが、選挙が定期的かつ頻繁に行われることである。

一つ目の参政権の平等という条件は、代表者を選出する投票権と代表者として選出される被選挙権との双方において、身分や財産、性別などによって差別されないことを意味する。この条件が選挙の民主主義化に必要な理由は、選挙で選出された代表者が、国民全体の代表者であり、それゆえ、その代表者たちが構成する議会での決定が国民に共有された意思の表明だとする想定ないし擬制を維持するのに不可欠だからである。

参政権の平等は、選挙の貴族主義的性格を緩和させると同時に、人民主権という近代民主主義の原理を代表制度の下で維持するために必要な条件だったのである。

もう一つの条件が、選挙の定期的で頻繁な実施である。民主主義の選挙の一つの機能には、代表者を選出するという実際的な機能がある。それは、代表者が政治権力を行使することを有権者が許可し、信任を与えるという機能として説明できる。

すなわち、委任の手続きとしての選挙だ。正統な政治権力の行使には被治者の同意と信任が不可欠だとした、絶対王政の時代の自然法学派の思想家たちでさえ、その多くが、そうした同意の表明は一度で十分であるとした。このため、彼らが定期的な信任の確認を求めることはなかった。

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これに対して、近代の民主主義の下では、信任を付与する委任手続きとしての選挙が定期的かつ頻繁に行われる必要がある。裏を返せば、代表者は、定期的かつ頻繁に有権者の審判を受ける必要があるということだ。これは、中世の命令委任から自由委任へ変化したことに関わる。とはいえ、定期的かつ頻繁な選挙は、代表者が政治権力を私物化しないよう有権者がコントロールせねばならないという民主主義の理念から要請される条件でもあることを忘れてはならない。

もちろん、これら二つの条件だけで、代表制度が民主主義の理念を実現できるわけではない。ロバート・ダールによれば、それらに加えて次のような条件を整える必要がある。表現の自由が保障されること。多様な情報源──新聞、雑誌、ネット──へのアクセスが可能であること。また、政党やその他の市民社会の団体が存在することなどだ。こうした条件がきわめて重要であることはいうまでもないが、選挙を民主主義に相応しいものにする上で、先の二つの条件はより根本的である。