巡礼者をインバウンド消費の担い手にする計画

2015年6月、SCTAは観光・国家遺産委員会(SCTH:Saudi Commission for Tourism and National Heritage)に再び改称した。これは、当初こそサルマーン国王即位直後の省庁再編・人事異動の流れとして理解されたが、実際は翌年に発表されたサウジ・ビジョン2030の下準備だったことがわかる。

ビジョン2030とは、「活気ある社会」「繁栄する経済」「大望ある国家」の三つを標語とした、脱石油依存・経済多角化を目指すサウジアラビアの経済改革である。当然ながら、観光政策にも経済効果が期待される。

具体的な取り組みとして、たとえばビジョン2030の基本計画には「巡礼者数の拡大、および観光産業とのタイアップ」がある。メッカ巡礼でサウジアラビアを訪れるムスリムに、聖地以外の都市への周遊を促す政策だ。従来、外国人による巡礼後の不法滞在(オーバーステイ)が頻繁に起きたことから、政府は巡礼査証によって巡礼者の滞在先・期間を限ってきた。しかし、ビジョン2030は年間約1000万人に上る巡礼者をインバウンド消費の担い手とすべく、巡礼後の周辺都市への観光プランを用意することを国内の旅行会社に指示している。

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観光収入の割合を「国家収入の10%」へ

こうした取り組みの成果として、2019年1月から8月の国内旅行による消費は前年同期間より8%上昇し、また海外からの観光客の消費は前年同期間より12%上昇した(Saudi Gazette, September 13, October 11, 2019)。政府は観光査証発給をへて、2019年時点で国家収入の約3%である観光収入の割合を、2030年までに10%に上昇させることを目指している。もっとも、消費の増加を維持するには消費を促す場所が必要だ。このため政府は2016年5月、サウジ・ビジョン2030の発足に伴って新設した娯楽庁をとおして、文化・芸術やスポーツに関するさまざまな催事を企画、誘致してきた。

かつて人々が集まる国内の娯楽行事といえば、春にリヤド郊外で行われる遺産・文化の国民祭典(通称ジャナドリヤ祭)や、ヒジュラ暦の11月にあわせてメッカ州で開かれるスーク・ウカーズ(ウカーズ市場)が定番であった。いずれも伝統的な手工芸品や剣舞など、サウジアラビアの伝統文化の紹介がメインである。