台湾の自由は抑圧あっての自由

僕らはカフェを出た。ちょっと話しすぎて疲れたので、お昼ご飯でも食べようということになった。六張犁の街は、文化系女子が好んで集まる街だそうだ。そう言われてみれば歩いているのは圧倒的に女子が多い。オシャレなカフェやセレクトショップも点在している。

神田桂一『台湾対抗文化紀行』(晶文社)

僕は目移りしながら、街をキョロキョロしながら歩いた。次は、dodoオススメの変わった小籠包を出すお店に入った。出てきたのは、小籠包にアイスクリームが載ったのと、麻婆豆腐が載ったのと、ふたつ。なんだこれは。まあいい。話の続きを聞こう。

「私が大学に入ったころは、インターネットの勃興期、情報が無限に入ってきた。いろんなことを知ることができた。教科書に嘘が書かれていることがすぐにわかった。それが決定的だったと思う。台湾は、いつ中国から攻め込まれるかもわからない。国としても承認されていない。いろんなアイデンティティの人の集まりでもあって、一致団結することが難しい。そういう環境のなかでは、常にファイティン! していることが大事なの。だから、みんな政治に関心があるの。フリーチベットの運動に賛同して、台北でビースティ・ボーイズのライブが行われたときは外国人がみんな台北に集まった。そのときは本当に感動した。同性婚法案が可決したときだって、感動した。矛盾するようだけど、台湾の自由は、抑圧あっての自由なのよ」

「政治のことを考えずにすむ日本人が羨ましい」

僕は、ドキッとした。抑圧があるからこその自由。台湾より、自由が空気みたいな存在で、自由のありがたさが麻痺してしまっている日本人の僕には、ことさら響いた言葉だった。確かに、日本でも不自由だと思う瞬間はある。しかし台湾に比べたらちっぽけなものだろう。自由がなくなってからでは遅い。僕は日本の政治で今何が起きようとしているのかをちゃんと監視し、いつまでも自由があるようにしなければ、と襟を正した。

「ある意味で日本は羨ましいの。政治のことを考えなくてすむでしょ。Facebookのタイムラインは、台湾人は新聞記事のシェア、日本人はグルメ記事のシェア。私も自分がやりたいことに没頭したいけど、そうもいかないの。よく冗談で言うの。日本に帰りたいって。サンフランシスコ平和条約の台湾放棄の前の意味での、日本に帰属したいなって(笑)。でもやっぱり台湾建国は私の課題と願望だから、頑張らなきゃいけない」

笑っていいのかわからなかったけど、僕は大声で笑った。そしてdodoも笑った。しばらくふたりして大声で笑い続けた。周りから見たら奇妙な光景だったに違いない。僕は再訪を約束し、名残惜しんでdodoと別れた。

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