池袋で暴走して11人死傷させた「上級国民」は薬の意識障害だった?
私は高齢者を専門にする医師だが、最近、頻発する高齢者の自動車による暴走や逆走についても、薬の影響を疑っている。
高齢者の運転のリスクのひとつに、動体視力や反応性の低下によりブレーキ操作などが遅れるということがある。要するに飛び出してくる子供などをよけられなくなることだ。
多くの高齢者はそれを自覚しているためか、以前よりゆっくり走るようになったと思う。前を走る車に高齢者のマークがついていると、ゆっくり走られてイライラする経験はドライバーならだれにもあるだろう。
今はスマホで動画をいくらでも撮れるから、それが投稿されて、高齢者の暴走や逆走ばかりが注目されるが、車に乗るたびに“常習的”にやっているわけではない。2019年に池袋で車を暴走させ11人の死傷者を出した旧通産省工業技術院の元院長(90)もそうだったと推測している(9月2日、元院長の禁錮5年の実刑が確定)。
11月17日にも、大阪府大阪狭山市で89歳の男性が自動車を暴走させ、スーパーマーケットにつっこみ3人を死傷させたが、ふだんは絵にかいたような安全運転のドライバーだったという。
ふだんしないことを突然するとすれば、原因として最も考えられるのが意識障害だ。
要するに、体は起きているが寝とぼけた状態になることだ。これの症状が重いものはせん妄と言われるが、高齢者の場合、精神安定剤(前日の夜に飲んだものが翌朝に残りやすい)のほか風邪薬やH2ブロッカーと言われる胃薬でも起こることが知られている。
あるいは、血圧の薬や血糖値を下げる薬が効きすぎて、一定以上血圧が下がりすぎたり低血糖状態を起こしたりした場合にも意識障害は起こる。ふだんはむしろ高血圧や高血糖なのだが、ある時間帯に効きすぎが起こることは珍しくない。たまたまそういう時間帯に運転している際にもうろうとして逆走したり、あるいはものに衝突しかけたりしてあわててアクセルとブレーキを踏み間違えることは十分あり得る。
高齢者の場合、服薬している薬など事故原因の究明は再発予防のために重要なことだ。
事故当時のことを覚えていないという供述に「ウソをつくな」「ふざけるな」という声が強いようだが、意識障害の場合、むしろ覚えているほうが珍しい。
交通事故に限らず、高齢者が増えている中、薬の副作用で意識障害が起こるという認識をもう少し社会に共有することが必要だと私は感じる。高齢者に一律に免許を取り上げるより、服用している薬についての注意喚起を行ったほうが、再発予防につながるかもしれないのだ。