意気込みが空回りした英国のジョンソン首相
採択に当たり、表現の後退に失望した英国のアロック・シャルマ議長はその無念から涙を流し、会場からは拍手が送られた。一方で、ホスト国のメンツをかけて臨んだジョンソン首相は、表現がphase outだろうとphase downだろうと大きな変わりはなく、石炭火力を排除する方向付けを明確化できたとして、今回のCOPの意義を強調した。
ホスト国である英国では環境に対する有権者の意識が高い。支持率低迷にあえぐジョンソン首相としては、今回のCOP26が自らのイニシアチブで大成功を収めたと主張し、有権者にアピールするしか選択肢はない。COPの成果を自画自賛するジョンソン首相だが、そうした背景が透けて見える以上、彼の威勢は「空回り」にも見えなくない。
それに英国は、今回のCOPを通じてEUを出し抜き、米国との関係強化を図りたいところだった。その米国は中国とCOP閉幕の直前である11月10日に気候変動対策で合意したと異例の共同声明を発表したが、このプロセスに英国が積極的な役割を果たしたかは疑問だ。結局、ジョンソン首相の片思いは成就しなかったのではないか。
他方でEUだが、石炭火力発電の性急な廃止を求める声の裏にはフランスを中心とする原発推進の思惑がある。福島原発事故(2011年)を受けて脱原発の流れが広がったEUだが、近年は小型モジュール炉(SMR)を中心に原発を新設する動きが顕著だ。かつて挫折した欧州加圧水型炉(EPR)を含め、EUは原発の輸出再開をもくろんでいる。
厳しい目標は本当に正義なのか
過激な環境活動家や環境団体はCOP26での合意内容を手緩いと批判している。スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリ氏はその急先鋒だ。とはいえ、もともと彼らは過激な主張に終始しており、実現可能性が高い対案を提示しているわけではない。急激な変化に伴う摩擦の問題に関しては、無責任な立場からの発言に終始する。
皮肉にもホスト国である英国のジョンソン首相が述べたように、外交の合意とは妥協を意味する。EUを中心とする先進国が一方的に定めた「正義」を途上国や資源国が受け入れることなどできるはずがない。渋る相手に条件を受け入れさせるなら、それなりの対価が必要となるはずであり、途上国が資金協力を求めるのは当然である。
この点について、岸田首相が11月2日の首脳級会合でアジアなどの途上国に5年間で最大で100億ドル(約1兆1400億円)を追加支援すると表明したが、本来なら高く評価されるべきだ。気候変動対策を是としながらも資金協力を渋り続けるEUや英国に比べると、日本は途上国の立場に寄り添った現実的なアプローチで臨んでいる。