洋服屋をやっていたからアイデアが浮かんだ

——今でこそ起業した会社のバイアウトは当たり前ですが、当時は珍しかったんじゃないですか?

そりゃもう。ネットの掲示板みたいなところでかなり叩かれましたよ。でも米国の同業も上場間違いなしと言われていたのにヤフーに買われた。ビジネスとして先を見通すのが難しかった。当時、ベンチャーキャピタルからは合計4億円の出資を受けていて、彼らに損をさせるわけにはいかない。それでインフォキャストは楽天のお世話になることにして、今のシナジーマーケティングの原型となる会社を立ち上げました。

——アイデアが続々と出てきたんですね。

昼間に洋服屋をやっていた時に着想はしていたんです。当時お店は赤字。売り上げを増やさなければならなかったから接客のロールプレイングをしたり、目新しさを演出するためにディスプレイを変えたりしたんですが、全然業績が上がらない。

写真=iStock.com/vadimguzhva
※写真はイメージです

それでお客さまに「誕生日おめでとうございます」とか「新入荷がありました」というようなメールを送り始めたんです。そのうちお客さまの属性に応じてメールの内容を変えたり、返事が受けられるようにしたりと機能を充実させたら、売り上げが前年比2割増になった。場末の店でこれだけの効果があるのだから、顧客データを使った販促ビジネスってありやんと思っていたんです。

なぜ、会社をヤフーから買い戻したか

インフォキャストを売却するにあたり楽天には3つのお願いをしました。一つは投資家に損をさせないでほしい。もう一つが次の仕事を考えているのでインフォキャストは辞めるが、楽天との関係を絶ちたくないので、出資をしてほしい。3つ目は当時約20人の従業員がいたのですが、その人たちに進路を選ばせてあげてほしい。楽天に残るもよし、僕が立ち上げる会社に参加してもらうのもよしとしてほしいとお願いしました。結局、14~5人が残った。

撮影=門間新弥

——そうして立ち上げたシナジーマーケティングをヤフーに約93億円で売却しましたが、19年に買い戻しました。インフォキャストを売却した時と心境の変化があったのでしょうか?

まずはなぜ売却したのか。企業はCRM(顧客管理)データをもとに顧客を細かく分析し、最適な提案をする。有力なアプローチ手法はメディアを活用することです。もちろんグーグルもありますが、日本ナンバーワンはヤフーですよね。そこと組めばシナジーマーケティングの成長が見込めると思ったんです。ヤフーが競合と手を組めば、僕らは苦しい立場に置かれてしまうという危機感もありました。