各国の金融当局が「Libra」を潰しにかかった

さらに、Facebookの現在の利用者の枠を超えて拡大する可能性もある。世界には銀行口座を持たない人が17億人いるといわれる。この人々がLibraを使うようになれば、きわめて大きな変化が起きるだろう。

野口悠紀雄『データエコノミー入門 激変するマネー、銀行、企業』(PHP新書)

Libraに対しては、世界的な大議論が起きた。各国の金融当局が、直ちに反応して、これを取り潰しにかかった。Facebookは、これに対応して、当初の野心的なプランから後退せざるをえなくなった。ただし、計画そのものが中止になったわけではない。「Diem」と名称を変更して発行される可能性がある。

Diemの発行・管理団体は、2021年5月、スイス金融当局への認可申請を取り下げ、主要拠点をアメリカに移すと発表した。そして、既存の米銀と提携する形に切り替えるとした。Diemの目的はどこにあるのか

ところで、Facebookは、何のためにDiemを発行するのだろうか? Facebookは、多くの人に便利な支払い手段を提供するのが目的だとしている。確かに、それはいいことだ。しかし、Facebookは公益団体ではなく、私企業である。人々の幸福に貢献するというだけではなく、それ以外の目的があっても、不思議ではない。

Diemの手数料はほぼゼロになるだろうから、手数料収入が目的とは考えられない。「シニョリッジ」(通貨発行益)を得るのが目的だという見方もある。しかし、Diemを発行するDiem財団は、発行額と同額の準備資産を保有するとしている。その資産は、流動性の高いものでなければならないので、収益率は低い。だから、シニョリッジが目的とも考えられない。

Diem発行の真の目的は、取引データの獲得にあるのではないだろうか? では、Facebookは、Diemで取得したデータを用いて、どのような利用をするつもりなのだろうか? Facebookは、これに関しては、何も言っていない。

中央銀行が発行する匿名性のない“マネー”の形

大規模デジタル通貨のもう一つのカテゴリーは、CBDC(中央銀行デジタル通貨)だ。日本銀行によれば、CBDCとは、次の三つの条件を満たすものだ。(1)デジタル化されていること、(2)円などの法定通貨建てであること、(3)中央銀行の債務として発行されること。

日銀の債務としては、現在、日銀券と、民間銀行が日銀に持つ当座預金がある。それにCBDCが加わることとなる(あるいは、置き換わることとなる)。つまり、CBDCとは中央銀行が発行するデジタル通貨だ。Diemの場合には発行運営者はDiem協会だが、それが中央銀行になったと考えればよい。利用手数料については、送金者側でも受け取り側でも、おそらくゼロに近い水準になるだろう。

紙幣には匿名性がある。それに対して、CBDCのウオレットは、スマートフォンのアプリだ。これをダウンロードするのに、本人確認は必ずしも必要ない。ただし、マネーロンダリングなどに対処するため、本人確認をするだろう。そうすると、匿名性のないマネーになる。