刑務所が「理想の家庭」なのだと信じていた
小島の母親は、姑と折り合いが悪く、夫にも助けてもらえなかった。やがて彼女は家の外に居場所を見つける。母親はホームレスや受刑者などの支援を続け、周囲から「マザーテレサ」と呼ばれるほど、活動に没頭する。そんな家で暮らしはじめた小島は、祖母に「岡崎の子」「岡崎に帰れ」と言われるようになる。小島が母親の身代わりになってしまったといえます。
先ほども話しましたが、小島は過剰に言葉に執着する。だから祖母の「岡崎の子」「岡崎に帰れ」もそのまま受け止めた。やがて小島にとって3歳まで過ごした「岡崎の家」が、理想の居場所になった。幼少期は何をやっても周囲の大人が面倒を見てくれるでしょう。泣けば、ご飯が出てきて誰かが食べさせてくれる。端的に言えば、自分が何をしても生かされる場所を、理想の家庭だと考えるようになった。だから、小島は、自分の命を最低限保証してくれる刑務所で生きることを望んだんです。
目的達成のための殺人
——小島にとっては理想の家庭が刑務所ということですよね。極端すぎて一般的な感覚だとなかなか理解しにくいですね。
そう思います。小島は、自分の欲求に対して一直線なところがあります。彼は、罪を犯した理由や動機をたくさん語るんですよ。ただし、理屈がとてもわかりにくい。当初、私も彼の言葉にリアリティをまったく感じられずに疲れ果ててしまう瞬間もありました。それでも接見を重ねた結果、彼の理屈がやっと腑に落ちた。
小島は「刑務所」、もっと言えば「国家」に安心な居場所、理想の家庭を重ねていたんです。
彼は理想を「岡崎の家」、つまり刑務所に見いだして、その目的に達成するための逆算をした。目的達成には人をひとり殺さなくてはいけない。逆転の発想で、彼なりに突き詰めていった。そのプロセスで無差別殺人が正当化されていった……。私はそう受け止めました。そこで、やっと辻褄が合った気がしました。
彼の言い分を理解し、納得できる人はいないと思います。ただ、裁判でも明らかにならなかった彼がたどり着いた答えに、なんとか到達できた手応えは、確かにあるんです。(後編に続く)