結果は出ても、社会的には間違った方向に進む危険性

かつて、IBMが開発した「ワトソン」というAIに「優秀な人材を採用する」というミッションを行わせたことがありました。すると、ほぼ男性ばかりが合格してしまいました。

ワトソンは「優秀な人とは、若くして出世して高い給料を取っている人だろう」と考えたわけですが、実際に、そういう人は、アメリカ企業においても圧倒的に男性が多いのです。

では、ワトソンが導き出した指示に従っていればいいのか。

それをやっていれば、ますます性差が広がっていくだけですし、そもそも「これまで女性に出世の機会が与えられなかったために男性より女性のほうが給料が安い傾向にあるのかもしれない」という因果を見落としてしまいます。

AIは統計と違って、結論に至る過程がブラックボックスなのです。この違いを理解していない人があまりにも多すぎます。

今後はある意味「AIの下請け」として、AIが提示した答えにそのまま従ってしまい、先ほどの男性優遇の例のように、結果は出るけれども、社会的には間違った方向に進んでいくというトラブルが起きる危険性があります。

「ホワイトカラー」の仕事はほとんどなくなる

では実際に、AIが仕事をどう変えるのかを見ていきましょう。

野村総合研究所がオックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授およびカール・ベネディクト・フレイ博士と共同で行った研究結果は、大きな衝撃をもって受け止められました。

電車や路線バスなどの運転士、経理など一般事務員、梱包や積み下ろしなどの単純作業を担う人たちの仕事は、99%以上の高い確率で今後AIに取って代わられるというのです。

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精神科医や作業療法士、言語聴覚士など自動化の可能性が0.1%と非常に低い職業も指摘されましたが、全体を通しても、日本の被雇用者の49%が高いリスクにさらされていることが報告されました。

それほど、AIにできる仕事が増えているわけです。

かつては、給料の高い安定した職業のトップであった銀行員も例外ではありません。メガバンクはどこも、AIを導入して大規模な業務量削減を行うと発表しているし、実際に人員削減が進んでいます。保険会社もしかりです。

要は、「自分はホワイトカラーだ」と思っている人の仕事はほとんどなくなるのではないでしょうか。給料が高い人の仕事ほど、AIにやらせたほうが企業にとって効率がいいのは明らかです。

逆に、給料が安い仕事をAIに置き換えるためにコストをかけるのはばからしいので、そうした仕事は残るでしょう。

とはいえ、その仕事を担う人数が多ければ話は別です。たとえば、給料の安いドライバーを数多く抱えているなら、初期投資をしてもAIによる無人運転のシステムをつくってしまうほうがいいからです。