更新期待権とは、「契約が切れても、きっと更新されるだろう」という有期契約労働者の漠然とした希望的観測が、法的利益にまで昇華されたものをいう。もし、更新期待権がある労働者を、契約期間終了を理由に辞めさせるのであれば、それは「雇い止め」でなく「解雇」という扱いだ。解雇であれば、労基法や判例が要求する厳格な要件を満たさなければ許されず、使用者は不利な立場となる。
ただし、更新期待権には条文上の根拠がなく、同権利をめぐる裁判例も少ないのが現状だ。その成否について司法はボーダーラインを明確に提示できていない。北村氏は、法改正の変遷や厚労省の告示などをもとに分析したうえで、「過去に3回以上更新され、かつ、継続勤務が1年を超えている」ことが、更新期待権が生じる目安になると説明する。
その基準を満たさない段階でも、更新手続きが形骸化している場合は、やはり雇い止めのつもりが解雇扱いになる可能性が生じる。雇用期間が定められた根拠が薄れるからだ。
仮に、この基準を満たす契約社員が雇い止めにあい、これを不当として裁判に持ち込んだら、使用者側が負ける可能性もある。つまり、使用者側は「3回更新、1年以上」雇用を継続するのなら、正社員と同様、雇用を続ける覚悟をしておく必要があり、労働者側は、この基準を満たして働いていれば、正社員に近い権利を主張すべきだということだろう。
加えて、使用者側は「雇い入れ時に更新の有無を確認し、更新があるとして更新の基準を文書で明示すべきだ」(北村氏)。それは、トラブル予防策としても、有期契約労働者の生活設計を担保する意味でも肝要な心構えといえよう。