マイスプーンなら自分で食事が取れる

警備保障最大手のセコムが開発した障害者向け食事支援ロボット「マイスプーン」。IS研究所基盤技術ディビジョンサービスロボットグループの石井純夫主任研究員が、10年余をかけて完成させた。マイスプーンは、折りたたみ式のアームの先にハンドがあり、そこにスプーンとフォークが取り付けられている。口元にあるジョイスティック(簡易レバー)を顎で操作すると、かすかなモーター音とともにアームが軽やかに動く。専用の食事トレイには、ご飯やタマゴ焼き、豆腐、サラダなどが盛りつけてある。さらに顎で操作を続けて、食べたい物のある区画を指示すると、ハンドがそこに移動し、例えばタマゴ焼きをスプーンとフォークではさんで利用者の口元まで運ぶ。


10年余かかって完成したセコムの「マイスプーン」。購入、レンタル可。

実物を見ていると実に巧みな動きをする。まずスプーンがタマゴ焼きの片方の面にぴたりと固定され、次にフォークがわずかな幅だけ移動してタマゴ焼きの一方の面をつかみ、食べ物をしっかりはさんだ格好で上へ持ち上げていく。

口元に運ばれたタマゴ焼きをどう口に入れるのか。じっと動きを観察していると、スプーンが利用者の口に触れた瞬間、触感センサーが反応してフォークがゆっくりとハンドのなかに引っ込み、スプーンの上の食べ物がスムーズに口のなかに入る仕組みだ。事故で頸椎を損傷して両腕を思うように動かせない障害者にとって、顎の動きだけで食事が取れるマイスプーンは大きな朗報となった。2002年の発売以来、日本や欧州諸国で約300台が売られ、手の不自由な人たちの食生活を支えている。価格は自費で買い取る場合1台39万9000円から、レンタルは月々6405円から。

(文中敬称略)

※すべて雑誌掲載当時

(川本聖哉、的野弘路、笹山明浩、永野一晃=撮影)