集積したデータの活用を阻んでいたいくつもの壁

日本企業はデータ活用が遅れているという話をしてきましたが、データの集積自体は最先端だった時期があります。

日本人には馴染み深いポイントカードは世界的に見ると稀なサービスですし、交通系ICカードはソニーが開発したもので、1997年に香港で初めて採用され、日本で採用された2000年代前半頃は世界でも最先端の情報が集まっていました。

しかし、このデータを交通以外のサービスに使うというアイデアはなかなか実現しませんでした。せっかくの技術を現在の本業以外に使えないか考える機会が少なかったのです。

写真=iStock.com/Prasit Rodphan
※写真はイメージです

QRコードは、トヨタ系列のデンソーによって、部品生産の効率化のために作られたのですが、一般的な決済用途での活用は、のちに中国から普及しました。それと似ています。

ポイントカードも、カードだけでなく、デジタル化することによって、データの活用が進むはずだったのですが、加盟企業全社の了承がなければデータを活用することが難しいことや、消費者のプライバシーに関する風評被害、個人情報保護法(今は改正されています)に関する懸念、データを貯蔵するクラウドや解析するAIなどの技術がなかったことから、先端のテクノロジー企業に比べてデータ活用が進んでいませんでした。米国よりもデータが多くあった時期があったのですが、活用できておらず、もったいない状態だったのです。

顧客の「あったらいいな」を実現している無印良品

国内の小売事業者で参考になるのが、「無印良品」を展開する良品計画です。

同社は、食品、筆記用具、アパレル、住宅、インテリア、最近ではホテル運営など、生活に関するありとあらゆる商品やサービスを扱っています。そして、「MUJI passport」というアプリを使って、オンラインとオフラインの融合、ハイブリッド化をうまく進めています。

例えば、インテリアの相談予約もアプリから簡便に申し込むことができます。アプリで購入した商品を、最寄りの店舗に配送してもらって受け取ることも可能です。

顧客が「あったらいいな」「あると便利だな」と思うサービスを、オンラインとオフラインの壁を気にすることなく展開していくという、明確なビジョンや戦略が伝わってきます。