独自のAI技術を持たない楽天の打開策

楽天のECは、すべてのショップを自社で管理するアマゾンのようなプラットフォームとは異なり、いわゆるモール型です。楽天が提供するのはあくまで場だけであり、売上や在庫などのデータの管理は、当初は、モールに出店している各事業者が行なうというスタンスでした。楽天カードの購買データは取得できるとはいえ、購入した商品などの詳細なデータは得ることができなかったため、アマゾンのような精緻なレコメンデーションができずにいたのです。

ただし楽天は、最近はデータを積極的に活用していこうという姿勢が見られます。モバイル事業に参入したのは、まさにその証と言えるでしょう。世界初となる、完全仮想化クラウド型のモバイルネットワークの構築がポイントです。クラウドを使うことで、従来のキャリアとは異なり、多くの個人データを安価に取得することが可能になります。

そして注目すべきは、モバイル事業への参入において、インドのコングロマリット企業、リライアンス・インダストリーズ、ならびに同グループ傘下の通信会社、リライアンス・ジオ・インフォコムの取り組みを参考にしていることです。

彼らのビジネスモデルは、モバイルから得たデータを、ECをはじめとする関連ビジネスに展開していくというものです。同じように多様なサービスを展開している楽天にとって大いに参考になるでしょう。同グループから優秀なエンジニアも招いているようですので、今後の動向に注目しています。

資本の乏しい小売業者はどうするべきか

楽天モバイルが安価で充実したサービスを設定しているのは、モバイル事業自体で収益を上げることよりも、データ活用のエコシステムを作ることが主目的だからでしょう。

一方、ヤフーは、楽天とは異なるアプローチでデータの取得を進めています。それが、PayPayです。PayPayで得た決済データから、個々の顧客に最適なレコメンデーションを、グループ企業となったLINEなどを通して行なっていくと、私は見ています。

楽天やヤフーのように資金が豊富というわけではなく、エンジニアやプラットフォームなども持っていない企業にとっては、これからデータを収集し、活用する体制を整備しようとしたところで、時間もコストもかかります。そうした小売業者は、生き残るために、先進的なテクノロジーベンチャーと手を組むか、買収を通じて、テクノロジーやシステムを取り入れていくことが必要でしょう。