稲見のスイングは縦に入ってきて縦に抜ける。フェースが目標に対して直角となるスクエアになっている時間が長く、だからこそ思ったところにボールを飛ばせる。これを可能とするために、練習ではティペッグやボールの箱を立てて、クラブの通り道を一定にするよう努力している。常に同じスイング、同じフェース向き、同じ弾道となるように心掛けて猛練習を繰り返しているのだ。

練習したショットを本番で可能とする集中力の作り方

猛練習によって新しくつかんだフェードボール。練習では体と手をシンクロさせて、思ったような弾道を打てるようになった稲見。しかし、これを本番の試合で確実に実践するのはさらなる至難の業である。

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ゴルフでは「練習場シングル」という言葉がある。練習場ではナイスショットを連発できても、本番の試合になるとミスショットばかりになる人をさす。野球でいえば「ブルペンエース」。ブルペンではいい球を放るのに、試合になるとからっきしの投手のことをいう。稲見は「練習場シングル」とは大違いのパフォーマンスを試合で見せる。重圧がかかる場面でも、まさにこれこそがプロというショットを見せつけていく。

「わたし、緊張したことがないんです」

そう言い切る稲見はなぜ練習場でできたことを本番でできるのだろうか。

それは限りなく1打に集中できる力を持っていることにある。そしてその集中力はいくつかの要点をつかむことで手に入れられる。

まずはリラックスと集中のメリハリ。稲見はスイングするとき以外はリラックスし、ボールを打つときだけ集中する。集中力はせいぜい50分しか持続できないと言われ、5時間もプレーするゴルフではラウンド中、常に集中することはできない。ショットの時だけ集中できればいいのである。それも他の人よりも高い集中力を発揮するには、オンとオフの切り替えが重要となる。稲見は証言している。

「コースを歩くときは一緒に回っている選手とおしゃべりします。内容はたわいのない事でも、笑えばうんとリラックスできる。そうしてボールに近づいたら、ライを確認して狙いどころを決めてクラブを選択。スイングですべきことだけに集中してボールを打ちます」

「狙いは1点に絞る」まるでアーチェリーや射撃の選手

おしゃべりして笑う。この愉快なおしゃべりが稲見にリラックスをもたらしている。その後にスイングやショットに集中しようと思えば、その集中力は高次元のものとなる。思ったスイングがしっかりとできるのだ。

「オリンピックではフェアウェイの狙いをさらに絞り込み、5ヤードの幅の中に打つつもりでスイングしました。そうしないと、次のショットでピンを狙うことができなくなるからです」