アフガニスタン撤退を促した、米国民の世論

バイデン大統領がアフガンからの撤退を進めたのは、20年間にわたるテロとの戦いに対するアメリカ国内の強い厭戦えんせん気分を意識してのことだ。

タリバンの首都奪還(15日)後の段階の18日から20日のCBSとYouGovの調査でも、アフガンからの撤退を支持する世論は63%と過半数を超えていた。党派性があり、民主党支持者は79%、共和党支持者は42%と差があるが、バイデン氏にとっては民主党側の世論をより気にするであろう。

この調査でむしろ驚くべきことは、タリバンの首都奪還の責任をアフガン側にあるとする声が圧倒的に多い点だ。タリバンの首都奪還を許したことについて「だれに責任があるのか」については、「アフガン政権」が86%、「アフガン軍」が84%、「バイデン大統領」が62%、「トランプ前大統領」が50%となっている(数字は「強い責任がある」「いくらかは責任がある」を足したもの)。アフガン政権やアフガン軍のふがいなさを非難するのはバイデン氏の立場と同じだ。撤退そのものに肯定的なのがアメリカの世論である。

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8月26日の自爆テロ事件直後の27日から28日にかけて実施されたABCとイプソスの世論調査では「アメリカに協力したすべてのアフガニスタン人が避難するまで、米軍はアフガニスタンに留まるべきだ」という声は71%に達した。既に30日に完全撤退となったため、この数字の評価は何といえないが、「アフガン協力者の待避まで米軍を残すべき」という世論が強くなっている中、もし内戦化した場合、批判も必至であろう。

世論を強く意識したバイデンの「中間層のための外交」

アフガニスタン、イラクという2つの戦争を経験した疲弊感や、イスラム国の台頭に象徴される中東情勢の先行き不安もアメリカ国内には渦巻いている。さらに、外交でも内政でも「動かない政治」に国民のイライラは極まっており、それが2016年のトランプ前大統領の当選や同年、2020年の2つの民主党予備選でのバーニー・サンダース議員の躍進に象徴されている。

そもそもバイデン政権の外交の一大スローガンである「中間層のための外交」とは世論を強く意識した外交であり、撤退もこの世論外交に沿ったものである。アフガンからの完全撤退は底なし沼から脱出したいという厭戦気分を代弁し、どんな形であれ撤退ということになれば世論の反発は大きくはないとみていたであろう。

今回の撤退はバイデン氏も見通しが甘かったと認めているが、少なくとも8月26日の自爆テロまではわれわれが想像する程には後悔していなかったのではないか。それが撤収作業の完了を8月末に前倒しして急いだ理由の一つとみられる。

20年間の長い期間をつかい、アフガニスタン復興でテロの源泉となる過激主義を抑えることを目的とした民主化、教育普及といった国家建設はそもそも「漢方薬」のようなものであり、効き目がないのはかなり前にわかっていた。「国家建設や安定化政策でなく、対テロに集中すべきだ」というのがバイデン大統領の信念だという。

確かにアフガン介入以降、911のような大きなテロは少なくともアメリカでは起こっていないため、20年間何とか大きな火種をアメリカは避けることができたのかもしれない。しかし、その「対テロ」の合意性も今回の撤退で揺らいでしまう。今後、IS系の勢力が伸長し、アフガニスタンがテロの温床になり、アメリカや同盟国をテロの標的とする事件が起こったとしたら、このロジックは破綻するためだ。

911の時点に戻るだけでなく、この間、アメリカの国力が衰退している分、アメリカからすればやりきれない「失われた20年以上」になる。