今回、“オリンピックの華”であるマラソンが東京でできなかったのは、開催地として重要な条件を欠いていたと思うし、東京の代わりにマラソンが行われた札幌は、選手にはきつかったはずだ。実際、男子マラソンは出場した106選手のうち30人も途中棄権。過去5大会を見ても高い割合だった。代わりに軽井沢・佐久地方を選んでいれば標高1000メートル前後だから気温は低く、しかも東京まで新幹線で1時間程度だから、閉会式のために東京へ戻るのもスムーズだった。

また、伊豆七島は東京都なので、きれいな海が主催都市の東京にはいくらでもあるのだが、どういうわけかトライアスロンやマラソンスイミングなどは、醤油色のお台場の同じコースを何周も回って恥をさらした。

脱テレビ利権のオリンピック実現を

“近代オリンピックの父”と呼ばれるピエール・ド・クーベルタン男爵は、フランスの教育者だった。ギリシャの古代オリンピックを復興させたのは、スポーツ教育が第一の目的だった。

五輪のコマーシャリズム(商業主義)は、84年のロス五輪がビジネスとして成功してからといわれる。しかし現在ほど、テレビ局やスポンサーが強かったわけではない。コマーシャリズムが目立ってきたのは、96年のアトランタ五輪あたりからだろう。

五輪がNBCと縁を切ることは、それほど難しくない。開催費用は、クラウドファンディングで集めるようにすればいいのだ。実際にも、アメリカにおける東京五輪の視聴率は、前回のリオ五輪と比較しても視聴者数が4割以上減り、過去33年間で最悪だったという。主要なメディアがテレビからスマホに移行しているデジタル時代なのだから、時代の変化に合わせて、テレビ局丸抱えの大会運営の仕組みを改革すべき時が来ているのだ。

雑誌「フォーブス」が21年4月に発表した最新の世界長者番付によれば、1位はアマゾン創業者のジェフ・ベゾスで約19兆円。2位はテスラとスペースXのイーロン・マスクで約16兆円。3位はLVMH(ルイ・ヴィトンなど)のベルナール・アルノーで約16兆円、4位はビル・ゲイツで13兆円、5位はフェイスブックのマーク・ザッカーバーグで約11兆円だ。今回の東京五輪はトータルで4兆円近くかかったと計算されているから、ベゾス1人の資産で、五輪が4回開けるわけだ。

この億万長者たちに「宇宙旅行に熱心なのもいいけど、あなたのお金で五輪を開催しましょう。現代のクーベルタン男爵になれますよ」と言えば、1兆円ぐらいポンと出す人はいるだろう。ジェフ・ベゾス級のお金持ちと言わなくても、世界には巨額の資産を持つ富裕層はごまんといる。種目ごとに大口献金者の名前をつけて「ゲイツ記念砲丸投げ」などとやっても面白い。