うつ病の25歳娘は親亡き後も暮らしていけるのか
それを聞いた母親はうつむき、固く口を閉ざしてしまいました。室内には重苦しい沈黙が降りてきました。しばらく様子をみた後、筆者は長女のお金の見通しを把握してみようと思い、家族構成や現在の収入支出などを母親から聞き取ることにしました。
父親 56歳 会社員
母親 53歳 パート主婦
長女 25歳 無職
※長男27歳は独立別居。独身。
【現在の収入】
父親 年収 700万円
母親 年収 90万円
長女 無収入
【現在の支出】
基本生活費や固定資産税など 月額30万円
住宅ローン 月額12万円
長女のための貯金 月額3万円
【親の財産など】
預貯金 2500万円
自宅マンション 2000万円
母親からは次のような見通しのお話も出てきました。
・56歳の父親は少なくとも65歳まで、可能であれば70歳まで仕事をする予定。
・25歳の長女の国民年金は60歳になるまで支払う。
・住宅ローンの残債は父親の退職金で繰り上げ返済をする。
・両親と長女は当面今のマンションに住み続けたい。
・両親亡き後はマンションを売却し、長女は小さめの住宅に住み替え、残りのお金は生活費に充てていく。
・27歳の長男(独立)は今のところ両親からの相続は全く期待しておらず、親の財産はすべて長女に相続してもらって構わないと言っている(ただし口約束なので、いずれは遺言状などの作成もしておきたいと思っている)。
世帯収入は手取りで50万円以上あり、月の家計は黒字です。また、親の預貯金は現在2500万円あり、2000万円程度の退職金も入る予定……母親から収入と支出の状況を聞くと、長女がお金の見通しについてはそれほど悲観する必要もないことがわかりました。
しかし、そのことを伝えても母親の表情は一向に晴れないまま。何やら難しい顔をしています。筆者がうながすと、母親はぽつりぽつりと長女の様子について語りだしました。
「実は長女が少しでも外の世界とつながれるようにと月3万円のお小遣いを渡しているのです。でも長女はそのお金を使うといったことがほとんどありません。どうやら親からもらったお金を使うことに抵抗があるようで……」
さらに母親は長女が抱いている願望も教えてくれました。
「本当は就労支援などの支援も受けてみたい。でも交通費などにお金がかかる。親からお金をもらって支援を受けるのは気が引ける。自分のお金なら気兼ねなく支援を受けることができるのに……」
長女は悲しげにそうつぶやいたそうです。
長女自身の収入があれば、その先の道が開ける可能性がある。でも、このままではどうすることもできない。他にいい方法はないものか?
頭を悩ませた筆者は念のため母親に次のような質問をしてみました。
「ご長女様が体調を崩された後、精神科を受診する前に内科や耳鼻科にかかったことはありませんか?」
すると母親ははっとした表情をし、何かを思い出すように視線を宙に向けました。
「そういえば17歳の頃から近所の内科にずっと通っていました」
「そうなんですか! もう少し詳しくお話いただいてもよろしいですか?」
まだ望みはあるかもしれない。筆者は心の中でそうつぶやきました。