「被害者女性に対しては目をかけてきた…」

「私がですか⁉」

1月31日の午後3時、電気興業本社の役員応接室で開かれたミーティングで、松澤社長(当時)は素っ頓狂な声をあげた。松澤氏が女性社員に対するセクハラを働いたとの内部通報があり、自らが調査対象になったと告げられたからだ。告げたのは二人の社外取締役である。その日は日曜日だったが、夕刻から中途採用の社長面接を行う予定になっている。社外取締役らは社長の出社を確認のうえで面会を求めた。

面会を申し入れた社外取締役は、前述の太田氏と、元SMBC日興証券副社長で現在はSUZUKI NORIYOSHI OFFICEの鈴木則義代表である。

太田氏はそこにいる三人のうち、最も年若だったが、話しぶりは誰よりも老熟していた。松澤社長は「被害者女性に対しては目をかけてきたつもりなので……」などと弁解していたが、太田氏は「上場会社の社長ですので、それは社長たる者、社員に対しては平等にすべき職責を負っておられます。あまり感心しません」とぴしゃりと言ってのけている。少なくともこの時点では、企業法務の分野で著名な弁護士である太田氏の発言は、弁護士や社外取締役としての役割から大きく足を踏み外しているわけではない。

「いずれにしても、ぼくたちが守ります」

一方、同じ社外取締役である鈴木氏は、松澤社長に向かって次のような趣旨の発言をした。

――いずれにしても、ぼくたちが守ります。そこは本気ですから。十日から二週間くらいかけて調査を行います。どんな結論出るのかわかりませんが、ここはその子からきちんと一筆取って、そのためには多少のおカネを払っても構わないと思います。打つ手は全部打つように指示はしたいと思ってます。

セクハラに関する調査報告書の作成はもちろん、聞き取り調査をする以前から、全面的な“松澤擁護”を明言したのだ。しかも会社として慰謝料を負担することさえ認めるような口ぶりでもある。

電気興業のウェブサイト

そればかりか鈴木氏は周囲に対して、松澤氏のセクハラに常習性はあるかどうか確かめ、以前には一度もないと聞き出したらしい。鈴木氏は、

――そこから考えると、はっきり言って結論は大したことない

と、被害者女性が聞いたら目をむいて怒り出すようなことをぬけぬけと言い放っている。

鈴木氏と松澤氏の関係について触れておかねばならない。