自粛要請に応じ続けた国民の危機感は減退し、第5波の感染爆発

次に、日本の状況を先取りしていると思われる欧米の状況を見てみよう。

図表1には、欧州と米国の感染者数と死亡者数の推移を日本と同じ形式で掲げた。欧州の最新波は第4波、米国の最新波は日本と同じ第5波であるが、ともに、感染者数は拡大しても死亡者数はほとんど過去最低レベルを維持している点が特徴となっている。

日本と比べると第1波における死亡者数のレベルが欧米では非常に大きかったという点が見逃せない。これが、欧米諸国ではロックダウンという強制的な行動抑制の政策をとらせた大きな理由であった点は確認しておく必要がある。

これに対して、日本は、強制手段というより自粛要請というかたちでコロナ対策を打ってきたのも、第1~2波における死亡者数レベルの低さによっていることは言うまでもなかろう。しかし、それがかえって、徐々に国民の危機感の減退につながり、第3波以降の感染者数や死亡者数が第1~2波より大きくなる状況を許し、さらに第5波の感染爆発にまで尾を引いているともいえるのである。

なお、欧米でも、日本ほどではないにしても、ワクチン接種が進むにつれて感染者数は再び大きく増加している点には注意が必要である。ワクチン接種は、感染予防効果や重症化予防効果があるが、気のゆるみ効果が感染予防効果を上回って感染拡大にむすびついている点に日本も欧米も一緒なのである。

最近の感染拡大は、なお、米国ではピークに達したかどうか定かではないが、欧州ではどうやらピークをむかえているようである。ヨーロッパで感染者数の増加が頭打ちとなった理由としては、夏休みに入ったためとも集団免疫が獲得されてきたからとも論議されているようだ。

ワクチン接種率の高い国ほど、感染拡大に見舞われている

欧米各国では、6月以降、ワクチン接種の進展とそれが功を奏したと見られる死亡率の低レベル維持を受けて、コロナ対策の行動規制の緩和に相次いで乗り出している。死亡率が上昇しないのに、政府としては、日本と比較してもかなりのストレスを国民に与えてきたこれまでの行動抑制策は維持しがたくなってきたのが理由だろう。

一方、民間での気のゆるみを象徴的に示した映像としては、7月上旬にはサッカー欧州選手権でイングランド代表の試合があるたびに、マスクなしのサポーターらがロンドンの一部の街頭を埋め尽くす状況が日本でも報道された。

感染者数が急増する中、死者数は比較的低く推移しているため、ワクチン接種の進展が効果をあげていると判断した英政府は7月19日にイングランドで残っていた行動規制をほぼすべて撤廃した。この英政府の判断に対し、世界各国の専門家が連名で英医学誌『ランセット』に「危険で非倫理的な実験に乗り出している」と批判する書簡を寄せ、再考を促したという(毎日新聞2021.7.31)。

国民意識を考慮した政府の政策に対して専門家が苦言を呈するという構図はわが国でも何回も目にしているものだ。

上にも述べたように、これまでかなり厳しい行動抑制を国民に強いてきた政策は、ワクチン接種の進展と死亡者数の低減を受けて維持しがたくなっているのが実情であろう。

こうした点をはっきり示すデータとして、図表2には、各国におけるワクチン接種率と感染者数の再拡大の程度との相関を示した図を掲げた。

図表2からは、ワクチン接種が進んでいる国ほど大きな感染再拡大に見舞われていることが見て取れる。ワクチン接種が2割以下とあまり進んでいないロシアやウクライナの感染拡大は2~4倍のレベルにとどまっているのに対して、5割以上の接種率のオランダ、英国では14~18倍の大きな感染拡大が起こっているのである。

デルタ株を「感染爆発の真犯人」に仕立て上げたのは誰か

この相関図における日本の位置としては、おおむね、右上がりの曲線という傾向線上にあり、倍率は5倍とそれほど大きくないものの、実は、いったん感染が大きく収まっていない状態からの再拡大であるため、感染爆発が過去の波を超える状態に至っていると理解できるのである。

欧米や日本の最近の感染拡大については、感染力の高いデルタ株の浸透によると見なすのが各国でも通例となっているようであるが、ワクチン接種が進んでいるほど感染が大きく拡大しているというこうした事実を知ると、むしろ、行動抑制の解除につながるワクチン接種そのものが真犯人だと考えざるを得ない。

デルタ株が感染爆発の真犯人とされているのは、報道上で安直に枕詞にしやすい点のほか、国民を行動抑制へ向け説得できていないというコロナ対策の不備をつかれたくないため、国民の心理的な要因をあげたくない政府の意向も影響していると見ざるをえない。