最大の要因は親族間の連絡不足
長兄は認知症を患い、先ごろ他界したばかり。Bさんは「亡くなった父親の骨は、先祖代々の墓所に埋めるつもりだった。なぜきちんと同意を取らずに勝手に墓じまいするのか。私は反対だ。一部の区画でもいいから残してほしい。それに、最も問題なのは、勝手にご先祖さまを永代供養塔に合葬したことだ」と抗議の電話をかけてきた。
先祖の墓の区画は先にも書いたようにいわば「売却済み」で、今さら、一部だけ墓を残すこともできない。Aさんの妻にその気持ちもなかった。永代供養塔に合葬したのも、今後を考えてのことで、何が問題なのか、とも思っている。
Aさんの妻はBさんの狙いをこう推測する。
「すべて金銭負担の問題でしょう。新たな墓を建てるより、先祖代々の墓にお骨を納めるほうがお金がかからないですからね」
長兄の葬儀にも呼ばれなかったが、意に介してはいない。
「ふだんの親戚付き合いはないに等しく、墓参だって、長兄の家族は数年に一度程度しかしていない。墓掃除から何から、こちらに押し付けておきながら、先祖の墓だけ残しておけという。そんな道理は通りません」
一方、Bさんは「ご先祖さまを永代供養塔に合葬されると、自分のルーツを失ってしまう感じがある。墓じまいをするなら、親族が一堂に会して法要ができるような菩提寺を新たに設けるべきだ」といまだに反発を続けている。
このケースでは、Bさんへの連絡不足が問題をこじらせた最大の要因だ。早めにBさんに連絡し、説明に意を尽くしておけば、少なくとも、今に至る紛争の種にはならなかったのではないか。
すでに墓じまい自体は完了し、Aさんの妻とBさんとの不毛な感情的対立だけが残った。Aさんの妻にとっては、これまで実質的に親族付き合いをしていなかったBさんの動向を常に気にしなければならなくなり、Bさんにとっては、ご先祖さまの墓を無くされたという大きな不満が残った。
今回の事例では、事前にきちんとBさんへ墓じまいの連絡をしていたとしても、諍い自体は避けられなかっただろう。だが、Bさんとしては、自分だけ直前まで連絡がなかったことで感情が逆なでされ、必要以上に事を大きくしてしまったのかもしれない。
「終活」をめぐる感情のもつれは、非常にデリケートだ。たったひとつの連絡の有無で、無用なトラブルを抱え込むことになってしまう。くれぐれも注意してほしい。