百数十万円をかけて先祖の墓の墓じまいを断行

「ご先祖さまには申し訳ないが、墓が遠すぎて墓参にも管理にも苦労する。あなた(妻)にそんな苦労はさせられない。自宅近くの○○寺の住職と懇意にしているから、そこに小さな墓を建ててほしい。兄弟にも、それぞれに墓を建てるなりするよう、すでに伝えてある。先祖の墓は墓じまいすべきだと思うが、私にはもう時間がない。私の埋葬を終えたら、墓じまいしてほしい。以前、墓じまいする方向で兄たちに話をしたことがある」

Aさんの妻は、エンディングノートに従い、百数十万円をかけて先祖の墓の墓じまいを断行した。Aさん夫婦に子どもはいない。「勝手に墓じまいしてしまってご先祖さまに申し訳ないという気持ちはあったが、かといって『A家先祖代々之墓』を建てれば、その墓は誰が見るのかという問題は残ってしまう。それで、宗派を問わず永代供養してくれる宗教施設の永代供養塔に合葬してもらった」という。

墓じまいで多くの問題が起きるのは、墓のあったお寺の檀家だんかから抜けるために支払う「離檀りだん料」と呼ばれるお金。だが、寺の提示金額は「さほど高いとは思わなかったので、そのとおり支払い、すんなり決着した」。墓じまいを提案しただけで、檀家が減るのは困ると怒り出す住職も存在する中で、寺との関係でもめ事は起きなかった。

Aさんの家の墓は江戸時代から続くため、区画が大きく、また墓地の入り口付近にあって最もお参りしやすい場所にあったためか、墓じまいの申し込みをした直後に別の埋葬希望者が複数現れ、すぐに「売却済み」となった。これが、寺との間で問題が起きなかった最大の要因とみられる。

墓じまいを知った長兄の長男が猛反発

墓じまいがすんなり終わると思った矢先、一部の親族から強硬な反対が出て、足をすくわれた形になった。

墓じまいに際しては、近隣に住む主だった親族には声をかけ、その同意を得た。誰からも異論は出ず「墓じまいまで、末弟に頼りっぱなしで悪いね」との言葉ももらった。しかしAさんの長兄の家には「以前に墓じまいの話をしたことがある」というエンディングノートの記述を信じて、墓じまいの直前に手紙で伝えた。

家族の問題について話している男
写真=iStock.com/Tero Vesalainen
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というのも、Aさんの父が亡くなり、跡継ぎになった際の遺産分割で兄弟がもめ、長兄が遺留分を求めてAさんを相手に裁判を起こした過去があるからだ。典型的な「争続」で、裁判終結以来、長兄の家族とは年賀状のやり取りもしないほどの断交状態になっていた。また、長兄家族は遠方に住んでおり、墓参もあまりしていなかったという。

ところが、墓じまいを知った長兄の長男Bさん(54)が猛反発した。Aさん側にとっては思いもよらない反応だった。