465万人の“社内失業者”
“妖精さん”とは、定年間近で目標を見失い、「働き」に見合わない高い給料を得ている年配社員のことだ。始業時間には会社に在席しているのだけれども、いつの間にか席を離れて気が付くと外出していなくなってしまう。そんなフワフワした存在感の無さを揶揄して名付けられた。一方、“社内失業者”は文字通り、企業に雇用されているにもかかわらず業務を失っている状況の人のことである。
社会の変化についていけずスキル不足に陥るということもあるが、企業の新業務に必要な能力と社員が持つスキルとが一致せず、異動先がなくなることでも起こる。2008年のリーマンショック以降に深刻化し、ベテラン社員だけでなく、適切な社員教育を受けられずにいる若手社員にまで広がっている。
求人情報サービス大手「エン・ジャパン」が2020年5月に公表した実態調査結果では、“社内失業者”がいる企業は予備軍を含めて29%に上った。サービス関連や商社が高く、従業員規模では「300~999名」(45%)と「1000名以上」(47%)といった大きな企業に顕著であった。少し古いデータとなるが、2011年の内閣府調査によれば、全国の労働者の8.5%にあたる約465万人が社内失業者に該当するという。
コロナ不況が“社内失業者”を増やした可能性もある。内閣府の「日本経済2020―2021」(2021年)によれば、企業の雇用者数が実際の生産活動に最適である水準を上回る「余剰人員」は、緊急事態宣言が初めて発出された2020年4~6月期は646万人に上ったのだ。
その後の経済活動の再開とともに減少はしたものの、10~12月期は238万人に上っている。非製造業が158万人で、このうち「飲食・宿泊サービス業など」が90万人だ。
仕事をしない会社員が1割近くいるという異常事態
コロナ禍で突如として業務量が激減したという特殊要因のもとの数字であり、経済活動が制約されて、企業の「余剰感」が強まっている事情がある。むしろ多くの企業が、経済活動の本格再開をにらんで何とか雇用を維持しているという側面もあるが、コロナ不況の長期化で支店や店舗の統廃合など事業そのものを縮小する企業も増えてきている。
こうした企業では“社内失業者”が増えやすい。加えて、コロナ後にデジタル化が進んで「ミドルスキル」の仕事が減り始めると、さらに“社内失業者”が多くなる。
しかしながら、テレワークが“妖精さん”や“社内失業者”などを浮き彫りにすることは悪いことではない。そもそも、少子高齢化で働き手世代が減りゆく時代に、1割近くもの「仕事をしない会社員」がいること自体が異常なのである。“人材の無駄遣い”としか言いようがない。
年功序列や終身雇用といった日本企業の労働慣行に守られ、「働き」の割に高い給与をもらっている社員の存在が、組織全体の士気を下げ、若手社員の意欲を削ぐ結果ともなっている。