政府の想定より“18年”早い出生率の下落

妊娠届け出数や婚姻件数の減少からして、2021年の出生数の激減は間違いないが、どれぐらいの水準まで落ち込むのだろうか。

河合雅司『未来のドリル コロナが見せた日本の弱点』(講談社現代新書)

コロナ禍の影響をさほど受けなかった2020年が過去最少を更新して84万832人になったことを踏まえれば、80万人割れは確実視されるところだ。合計特殊出生率も前年より0.02ポイント下がり、1.34となった。厚労省の人口動態統計月報(概数)によれば、2020年は婚姻件数も、前年と比べて12.3%下落した。

もし、これに比例して妊娠件数が1割下落すれば、2021年の年間出生数は75万人程度にまで減る可能性が出てくる。速報値では2021年1〜3月の出生数は、「コロナ前」だった前年同期比9.2%の激減である。

社人研は75万人となる時期を2039年と予想していた。18年も早い到達が現実となったら、2021年は「ベビーショック元年」として、長く歴史に刻まれることとなる。人口減少対策のための「残り時間」を一気に使い果たしてしまうようなものだ。

2022年の70万人割れが視野に

問題はこれで終わらない。出生数の減少は2022年以降も加速を続けそうだからだ。2021年1~3月の婚姻件数は、前年同期間比5.9%減と下落に歯止めがかかっていない。雇用情勢は悪化しており、前年より1割近い減少となったら、2022年の年間出生数は70万人割れが視野に入ってくる。それは2040年代半ばに達すると見られていた水準だ。日本社会は急降下で縮むこととなる。

結婚や妊娠は、個々人の価値観に基づく極めてセンシティブな問題であり、とりわけ「タイミング」が重要である。コロナ禍が収束すれば観光需要などが爆発的に増えることが予想されるが、結婚や妊娠に関しては“ため込んでいた需要”が一気に放出されるようにはならない。

結婚ブームや出産のブームが起きるわけではないのだ。

コロナ禍で“新たな出会い”さえ奪われている

新型コロナ感染症は、人間関係の中で“最も濃厚な関係”を築かなければならない恋愛を難しくする。初めて出会った男女が恋人関係に発展するのに、マスクにソーシャルディスタンスでは無粋であろう。テレワークでは直接の出会いそのものがなくなる。

社人研の「第15回出生動向基本調査」(2015年)によれば、平均交際期間は4.34年だ。今後数年は、「コロナ前」から交際していたカップルが結婚する時期を迎えるが、問題はその後だ。出会いや“最も濃厚な関係”を築く機会を奪われる期間が長期化したら、婚姻件数どころかカップルそのものが激減しかねない。

コロナ禍は収束の目途が立っていない。社会ストレスがかかる状況でセックスレスの傾向が続き、婚姻件数の下落傾向に歯止めがかからなければ、出生数は墜落するように減ってしまう。日本社会は壊滅的な打撃を免れ得なくなるだろう。