また訴訟を起こす人のなかには、とにかく法的措置をとったことをメディアが報じてくれればいい、と考える人もいる。それだけでも十分、報じられた内容は事実ではないとの印象操作ができるからだ。そのあと訴えを取り下げても報じられることはない。特に多いのが政治家の「メンツ提訴」だ。支持者や所属政党などに、「週刊文春の記事は事実ではありません」とアピールするために提訴して、しばらく時間がたってから取り下げるというものだ。

説明する責任はどこまでもついてくる

私はこれまでいくつもの裁判に対応してきた。そのたびに知見を積み上げ、裁判に負けない戦い方を学んできた。紛れもない事実を提供してくれる取材源がいても、その人が裁判で証言してくれるとは限らない。その人にも立場があるからだ。公務員なら守秘義務がある。

新谷学『獲る・守る・稼ぐ 週刊文春「危機突破」リーダー論』(光文社)

われわれは、常に裁判になることも想定して取材を進めファクトを固めている。完成した原稿に少しでも法的リスクを感じれば、法務部や顧問弁護士にチェックを頼む。そこまで念入りに準備していても民事だけではなく、刑事告訴されることもある。

刑事告訴されると、東京地検特捜部や警視庁捜査二課から編集部に電話がかかってきて、編集長は被疑者として出頭を命じられる。

出頭する日の朝はいつだって気が重い。冷水のシャワーを浴びて心身を浄め、新品のパンツをはく。毎回ひとりで検察庁に向かうが、編集部を出る時は、そこにいるデスクにテレビだけは見ていてくれと頼む。「週刊文春編集長、逮捕」とテロップが出たら、コメントを発表してくれと言って編集部を後にする。

説明する責任はどこまでもついてくる。

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