裁判で敗訴しても、社会的意義のあるスクープだった

女優の能年玲奈(現・のん)さんの記事〈国民的アイドル女優はなぜ消えたのか〉(2015年)では、彼女が所属していた芸能事務所の社長からパワハラを受けていたことを報じ、事務所から提訴された。能年さん本人の証言もあり、われわれは記事には十分に自信をもっていたが、最後は最高裁から上告を退けられた。

だがこの一連の裁判の過程で、大手芸能事務所とタレントとの不公平な力関係が社会的に問題視されるようになり、ついには公正取引委員会が指針を示すに至った。

そこでわれわれは判決が確定した時点で、週刊文春と文春オンライン上でスクープの内容から裁判での攻防、公正取引委員会の動きまでを詳しく報じた。

今でも社会的な意義のあるスクープだったと確信している。

メディア政治家とのインタビュー
写真=iStock.com/microgen
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炎上で絶対にやってはいけない3つのこと

炎上が起きた時、絶対にやってはいけないことが3つある。「逃げる」「隠す」「ウソをつく」だ。企業の広報担当者向けのセミナーでも話すことがある。

一番目の「逃げる」とは、たとえばメディアが取材に来たときに、「担当者が不在でお答えできません」と追い返すことだ。問い合わせのメールに返信しないことも「逃げ」。説明することから逃げてはいけない。都合が悪いから逃げた、と痛くもない腹を探られかねない。そもそもスマホもZoomもある時代に「不在」は説得力がない。逃げていることはメディアを通して消費者にも伝わってしまう。

2番目の「隠す」とは、「現在調査中です」と時間を稼いで、もう少し事実が固まったところで発表しようとする対処法だ。社内で口裏を合わせたり、事実を揉み消したりしていることも多い。

事実誤認しても、隠さずにすべて話す

しかし今は、企業が関係者に向けて「まだ調査中だから口外しないように」と送ったメールが文春リークスに届く時代である。積極的に隠蔽しようとしていなくても、これでは隠蔽ととられかねない。望ましいのは、なるべく頻繁に、新たな事実が確認されるたびに、「現時点まででわかったのはこういうことです」と常にアナウンスメントを心掛けることだ。

途中で事実がひっくり返ったり、調査によって変わったりすることがあれば、「こういう発表をしましたが、その後の調査で新たな事実が判明して、ここに関しては誤りでした」と説明をアップデートしていけばいい。過去の説明を削除して新たに上書きするのではなく、時間の経過がわかるようにすべてをアーカイブとして残す。

混乱時には、情報が錯綜するから事実誤認をすることもある。それも含めて隠さない。そうすることで、説明責任を果たそうとする姿勢が伝わる。正確な事実関係がわかるまで、と延々と説明を先送りするより、よほど印象がいいだろう。