政権の正当性を国民に信じ込ませる必要がある
こうした日本政府の主張に対し、中国政府は「尖閣諸島は中国領土の不可分の一部だ」「日本が自由で開かれたと主張するインド太平洋構想は、歴史的逆走の産物で、ゴミの山に捨てるべきだ」などと露骨に反発する。
耳障りな言葉を並び立てる習近平政権のこの戦術は「戦狼外交」と呼ばれる。強い言葉で相手国を罵倒し、自国の正当さを何度もアピールする好戦的外交戦術である。「嘘も百回言えば真実になる」や「三人、虎を成す」ということわざの類を地で行くものだ。
戦狼外交の戦術は外交だけではなく、内政にも大きく役立つ。14億人超という世界最大の人口を維持するためには、政権の正当性を国民に信じ込ませる必要がある。戦狼外交によって自国の政府が常に正しいと国民に思わせることで、政権に対する反発心を抑え、分断や内乱が未然に防げるというわけだ。
しかしながら、いまの中国は一人っ子政策の失敗で少子高齢化の大波が押し寄せている。また、世界第2位の経済大国にまでのし上がったが、その裏側では貧富の格差が大きく広がり、社会不安を抱えている。
「激しい言葉で反発したのは、痛いところを衝いたから」
7月16日付産経新聞の社説(主張)は「令和3年版防衛白書の特徴は、力による現状変更を進める中国によって台湾をめぐる緊張が高まることへの警戒感を示したことだ」と書き出し、こう主張する。
「尖閣諸島(沖縄県)や南シナ海、北朝鮮などの問題に加え、台湾の安全保障を重視する姿勢を示したのは妥当である」
沙鴎一歩も「妥当」だと思う。
産経社説は防衛白書への中国側の一連の反発に対し、「激しい言葉で反発したのは、白書が中国の痛いところを衝いたからだろう。中国は白書をののしるよりも、軍用機や空母での台湾への露骨な脅しをやめるべきだ」と訴える。
防衛白書は台湾情勢の安定化が国際社会のために欠かせないと強調しているが、習近平政権は欧米の民主主義国家が国際社会として一致団結し、中国を批判することをかなり警戒している。習近平国家主席は国際社会に弱い。