今回の事例もそれに当たる。焚火に何となく興味がある人に、手ぶらで楽しんでもらうという訴求は珍しい。現代の消費者は総じて手間のかかる行為を好まない。何に凝って何に凝らないかは人によるが、多くの人にはなじみの薄い「焚火への障壁」を取り除いた。

便利な社会になぜあえて火を使うのか

スノーピークが創業したのは1958年。本社がある新潟県三条市で最初は金物問屋として産声を上げた。当地は江戸時代から続く鍛冶技術でも知られる土地柄で金属加工業が盛んだ。クライマーでもあった創業者は、登山用具の製造・販売を手がけ始め、金属加工技術を生かした商品が支持されて業容が拡大した。焚火台もその技術のひとつだ。

同社の従業員はアウトドア好きが多く、アウトドアパーソンやキャンパーとして「人間性の回復」も共有する。今回、こんな話も耳にした。

「キャンプ参加者にはファミリー層が多く、中には『自宅ではオール電化で生活しているので、子どもは火を使う生活をしていない。だからあえてキャンプに参加しました』と話す家族連れもおられます」(永松氏)

現代生活が便利になった半面、昔の人が持っていた「ヒトとしての本能」が失われたともいわれる。ナイフを使えない、マッチを擦れないといった話も耳にする。

また、SNSや動画の見過ぎで疲れてしまわないよう、休みの日はあえてスマートフォンを手放したり、電源を切ったりしてスマホを触らないという人もいる。アウトドア体験は、そうした「デジタルデトックス」を楽しむ機会にもなりそうだ。

写真提供=スノーピーク
焚火ラウンジでは、焚火以外も楽しめる「手ぶらBBQプラン」も用意している。食材は持ち込みだ(料理はイメージ)

たった7%のユーザーを増やすには

スノーピークが「焚火ラウンジ」で目指す道を整理すると、次の3点だろう。

(1)まずは「体験」することで興味・関心を高めてほしい
(2)興味をもった人には、商品の購入やイベントの参加をしてほしい
(3)本人だけでなく、家族や友人・知人も取り込み愛好家を増やしたい

すでに紹介した事例もあるが、それぞれ簡単に説明しよう。

(1)は、まさに今回の「焚火」や「BBQ」がそれに当たる。前述の3種類のプランの中には「デイキャンププラン」(来店~19時まで)も用意されているが、多くの人には焚火やバーベキューのほうがとっつきやすいだろう。