看護師「余計なお節介だけど、お母さんは入院したほうがいい」
しかし母親は突然、38度を超える高熱を出し、柳井さんと父親はかかりつけの内科へ母親を連れて行った。内科では、抗生物質を処方され、点滴を打って帰宅。
それでも熱は引かないばかりか、高いときは39度を超える。
12月22日、父親は「病院に連れて行きたいけど、もうお母さんを起こすことができない。救急車を呼ぼうと思う」と電話をしてきた。柳井さんは急いで長女を保育園に預け、次女とともに実家へ。
母親はうつ伏せの状態で寝ていた。げっそり痩せて、柳井さんが話しかけても、ピクリとも動かない。悩んだ末に柳井さんがデイサービスに相談すると、デイサービスの職員が病院まで運んでくれることに。
デイサービスの職員の車とサポートでかかりつけの内科を受診すると、医師は、再び点滴して終了。柳井さんは「え? こんな状態なのにそれだけ?」と唖然とする。そんな様子を見たのか、診察室を出ると、2人の看護師さんが小声でこう言った。
「余計なお節介だし、ここまで言ってはいけないのは承知しているけど、お母さんは入院したほうがいい」
「異常な痩せ方でびっくりした。どこか入院できる施設に無理にでも頼んだほうがいい」
「つらかったね」母親への献身的な介護を医師に労われ、涙した父
柳井さんは驚きとともに、明らかにおかしい状態の患者を前に、紹介状さえ書いてくれない主治医に対して怒りがこみ上げてきた。すると送迎を請け負ってくれたデイサービスの職員が、「病院のアテがある」という。何とかその病院にかかって紹介状を書いてもらい、24日に大学病院へ予約を入れることができた。
その夜、柳井さんは母親のことが心配になり、娘たちを寝かしつけた後、実家へ向かった。
実家では両親とも寝ていたが、母親が目を覚まし、「絵美? どうしたの?」と声をかけた。
「お母さん大丈夫? 来週大学病院行けるからね。早く元気になってね」と答えると、柳井さんは涙が溢れてきた。それを見て母親は、優しく頭をなでてくれる。
柳井さんは号泣したくなるのをこらえて、「長生きしてね。孫たちが大きくなるのを見ててね」と言うと、「大丈夫よ〜。気をつけて帰りなさいね」と微笑んだ。
不思議とこの時の母親は、認知症になる前の母親のようだった。24日、クリスマスイブ。結婚して遠方で暮らす妹を呼び、2人の娘を預け、母親を大学病院へ連れて行った。
母親は待合室でも人の目を気にせず、「助けてくれ〜! 痛い〜! 早くしてくれ〜!」と大声を出す。30分ほどして問診や検査が始まっても、母親は叫び続けた。医師は父親と柳井さんに、約1カ月前から母親の腰が痛くなった経緯を細かく聞き取る。
診察の最後に医師は体を正面に向け、柳井さんと父親の目を見てこう言った。
「お父さん。お母さんの栄養状態がこんなに悪い中、褥瘡(床ずれのこと)がこの程度ですんだのはお父さんのおかげ! よく頑張りました! お父さんすごいよ! つらかったね。本当によく頑張りました!」
父親は黙って下を向き、涙を拭った。