糾合と競争のバランスが重要だ

その背景には、最先端分野の技術開発、その社会実装に欠かせない生産技術の確立のためには、独占禁止法で企業の事業運営を縛るよりも、状況に応じて経営体力の強化をサポートする必要性が高まっているとの政府の考えがある。その一方で、政府は通信大手3社に携帯電話料金の引き下げを求めた。

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重要なのはバランスだ。包括的に考えると、政府は最先端分野では企業の経営体力向上による技術開発をサポートする。他方で、社会実装が進んだ技術に関しては、競争原理の発揮を重視することによって国民がベネフィットを実感できる環境整備が重視されている。それは、中長期的な経済の安定と成長にプラスの効果をもたらす可能性がある。

別の見方をすれば、世界経済のデジタル化が加速するに伴い、安心して利用できる情報通信サービスの確立は、一企業の経営戦略という範疇を超えて、社会インフラとしての役割をより強く帯びる。さらに、情報通信技術の向上は、安全保障面だけでなく、わが国の経済運営の効率性向上にも欠かせない。旧電電ファミリーの糾合が目指されていることには相応の意義がある。

世界一位「スパコン富岳」の大きな可能性

注目したいのが、3期続けて理化学研究所と富士通などが開発、運用する“富岳”が、計算速度ランキングで3期連続世界トップの座を守ったことだ。富岳に注目するには重要な理由がある。

富岳は、新型コロナウイルス感染対策において飛沫シミュレーションなどで力を発揮している。先端技術の有用性をより多くの国民や世界の企業が実感するためには、例えば、スパコンの小型化が必要だ。それが実現されれば、より多くの人がわが国のスパコン技術を需要するだろう。

スパコンに加えて、足許の世界経済では量子暗号をはじめとする量子技術の研究開発が加速している。理論的に、スパコンと量子コンピューターは、相互補完的な機能を担うと期待されている。スパコンはより高速な演算を可能にする。量子コンピューターは、新しい医薬品の開発や、情報通信技術の向上に必要な新しい素材の開発など、特定分野でのより高速かつ精緻なシミュレーションを支える。暗号技術面でのイノベーションも進むだろう。