米国経済の“ゲームチェンジ”が起きている

主要先進国で、経済運営の基本的な考え方が修正され始めている。典型例が米国だ。伝統的に米国は市場原理に基づく経済運営を重視した。しかし、1989年の天安門事件後、徐々に中国の“国家資本主義体制”の強さが目立ち始めた。

報道陣に公開されたスーパーコンピューター「富岳(ふがく)」
写真=時事通信フォト
報道陣に公開されたスーパーコンピューター「富岳(ふがく)」=2020年6月16日、神戸市中央区

特に、リーマンショック後の米国では共和党保守派を中心に自由資本主義体制よりも、国家資本主義体制の方が強いのではないかという疑念、懸念が増えた。それがトランプ前政権の対中強硬策を支えた。バイデン政権はIT先端分野への補助金の給付などをより重視しているようだ。米国の経済運営の理念は“自由資本主義”から、必要に応じて政府介入を伴うものに修正されつつある。米国経済の“ゲームチェンジ”だ。

わが国政府も特定企業による独占を禁じる発想を修正し、NTTを中心にかつての“電電ファミリー”の糾合を重視し始めた。その中で注目したいのが、ファミリーの一翼を担った富士通などが開発したスーパーコンピューターの“富岳”が、世界トップの座を守ったことだ。

世界トップの情報通信技術などの有無は、わが国の経済全体の活力や国際世論での発言力を左右する。わが国政府はそうした認識をしっかりと持ち、企業がより積極的に最先端分野に生産要素を再配分する環境を整備しなければならない。それは“アフター・コロナ”を含め中長期的なわが国経済の実力に無視できない影響を与えるだろう。

“レッセフェール”を覆した中国の急成長

伝統的な経済学では、市場経済の意義は、限りある資源を有効に再配分し、より効率的に付加価値を生み出すことにあると考える。具体的には、市場には同じ情報を持つ無数の企業が存在する。個々の企業(事業者)は自らの利得を重視して競争する。

その結果、あたかも神の見えざる手に導かれるように経済全体で効率的な生産要素(ヒト・モノ・カネ)の再配分が実現される。それが、“レッセフェール(自由放任)”の考え方だ。伝統的に米国では自由資本主義の考えが重視され、政府は基本的に、民間の競争に介入すべきではないとされてきた。

しかし、実際の経済は理論通りではない。天安門事件以降、中国経済は大方の予想と異なり、民主化ではなく共産党政権の指揮によって工業化を進め、高い経済成長率を遂げた。リーマンショック後の中国は、国家資本主義体制をより引き締めて国営・国有企業などの事業運営を支援し、高い経済成長を維持した。

中国政府は産業補助金や外国企業からの技術の強制移転によって先端分野への生産要素の再配分を強力に推進し、華為技術(ファーウェイ)などの急成長を支えたのである。