「五輪無観客」を訴えた都民ファーストの会に票が流れた

菅首相はワクチンを武器に新型コロナ対策を徹底し、東京オリンピック・パラリンピックを成功させ、その勢いに乗って自民党総裁選と衆院選に打ち勝ち、首相を続投する野心を抱いている。このまま終わってしまったのでは「つなぎの首相」と揶揄されるだけだからだ。

しかし、今回の都議選では、感染者が増え続けるなかでの五輪開催に対し、東京都民が不安を抱き、「五輪無観客」を訴えた都民ファーストの会に票が流れた。「五輪中止」を求めた立憲民主党と共産党も獲得票を伸ばした。

都議選敗北の結果を受け、自民党内からも「五輪無観客」を求める声が強く出てきた。自民党幹部には「五輪開催中はワクチン接種の効果で高齢者の重症患者が減り、病床の逼迫は避けられる」という楽観視する向きもあるが、国民の大半は感染者数の増大に一喜一憂している。これにはメディアの責任も大きいが、残念ながらそれが現状だ。

それに現状では、国民の15%しか2回の接種は終わっておらず、いわゆる集団免疫は期待できない。しかも接種をめぐっては「職域接種」に予想を上回る申請が殺到して受付停止となるなど混乱が続いている。

自民党や公明党からも「無観客」を求める声が出ている

菅首相はこの難局をどう乗り切るつもりなのか。菅首相は五輪の「有観客」にこだわっている。いまのところ、収容人数の50%が5000人以上となる大規模会場は無観客とし、それ以外は観客を入れる方針だという。これに対し、自民党や公明党からも「無観客」を求める声が出ている。菅首相には、自身の鼎の軽重が大きく問われていることを自覚してほしい。

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菅首相はワクチン接種の大号令で新型コロナに打ち勝とうと懸命だ。これまでの記者会見での発言にも「勝つ」という言葉が何度も出てきた。しかし、ウイルスに勝つというのは人間の思い上がりに過ぎない。ウイルスなどの病原体に対しては、正面から戦うのではなく、ワクチンや治療薬を使って感染を巧みにコントロールする必要がある。

ウイルスはしたたかだ。人間の思考が及ばない動きをする。ワクチンを駆使してこの地球上から根絶できた感染症は、天然痘(疱瘡、痘瘡)ぐらいである。大半の感染症は根絶できないと考えるべきだ。

菅首相が五輪に失敗すれば、自民党は衆院選に敗れる。そうなれば立憲民主党など旧民主党勢力の思うつぼである。10年前の東日本大震災や福島原発事故での旧民主党政権の大混乱を思うと、立憲民主党などの野党に政権を与えてはならない、と沙鴎一歩は考える。