日本兵に手榴弾を投げつけるアトラクションも

アトラクションを試してみた。まずは「抗戦遊戯競技場」にある銃撃と手榴弾の投擲とうてきだ。ゴム弾とレプリカの手榴弾を、幾つ的に当てられるのかを競う。手榴弾は柄付きの古風なもの。私が投げあぐねていると、従業員が苦笑しつつ投げ方を教えてくれた。

辻田真佐憲『超空気支配社会』(文春新書)

銃撃の的は日の丸、手榴弾の的は日本兵のイラストだった。両方ともペンキがかなり剥がれており、相当回数「命中」していることがわかる。ただ、難易度が高く、なかなか的に当たらない。

しかも当てたところで、賞品があるわけでもない。「カンッ、ゴンッ」と壁に当たる音だけが虚しく響く。せめて「日本軍撃破!」のサインでも出ればいいのだが。はっきりいって、安っぽかった。

続いては、すぐ近くの「戦車駐屯地」。タイヤで囲われた、山あり谷ありのうねうねとしたコースを戦車に乗って進む。戦車といっても、無蓋のふたり乗りで、戦車砲は飾り。いわばゴーカートの戦車版である。

見た目は子供だましだが、足回りの作りは結構本格的。少しアクセルを踏んだだけで、轟音とともにかなりのスピードが出る。おまけにキャタピラは本物なので、すぐに障壁のタイヤを踏み越え、コース外に突き進んでしまう。

コース近くには池もあるため、子供が無邪気に操作したら危ないはずだ。ただ、スリルがあるぶん、大人でも結構楽しめた。

「もともとこの文化園は演劇が目玉だったのですが、最近になってこうしたアトラクションを増やしました」とは先の女性従業員の話である。よく考えれば、ゲリラである八路軍にはまともな戦車がなかった。後付けなので、時代考証が雑になっているのかもしれない。

プロパガンダの本質は「楽しませること」

武郷県内には、ほかにふたつのテーマパークが所在する。

地雷戦、追撃戦、地下道戦など各種のゲリラ戦を体験できる「八路軍遊撃戦体験園」と、広大な舞台セットのなかで抗日劇を鑑賞できる「『太行山』実景劇」だ。

著者撮影
CGによる抗日戦の再現。正面のスクリーンから戦闘機などが飛び出す

三つあわせて「両園・一劇」といい、総面積はディズニーランドの3.5倍以上に相当する。それぞれ地理的にかなり離れており、到底一日では回りきれない。

こうした過剰ともいえる豪華な施設は、レッドツーリズムにかける武郷県当局の並々ならぬ意気込みを物語っている。たしかに、現状その設備は安っぽく、子供だましで、ディズニーランドなどにはまったく敵わない。だが、遊園地への着目には、やはり先見の明がある。

ひとは小難しい理屈よりも、楽しさを好む。ゆえにプロパガンダもまた、できるだけ押しつけを排し、楽しさを取り入れなければならない。

八路軍文化園は、この鉄則に忠実である。誰もが楽しめるアトラクションを作る。そこに、「共産党は日本を倒し、中国を救った」というメッセージを紛れ込ませる。すると、ひとびとは自然と無理なくそれに感化される。この宣伝効果は、退屈な展示などよりもはるかに高い。

現在、同園はCCTV(中国国営テレビ)で特集されるなど、全国的に注目を集めつつある。その影響力は決して侮れない。

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