人の話を聞くとき末尾に気をつけよう

また、自分が人から聞いたことを別の人に伝えるとき、相手に強い印象を与えたいという欲求が暗に働くのか、つい大げさで不正確な表現になってしまうことも多い。とくに、文の終わりにはそういった「不正確な言い換え」がよく見られる。たとえば次のようなものだ。

元の発言「~である可能性が高い」→よくある不正確な言い換え「絶対に~である」
元の発言「~である可能性は低い」→よくある不正確な言い換え「けっして~ではない」
元の発言「~しない方がいい」→よくある不正確な言い換え「~してはならない」
元の発言「~は難しい」→よくある不正確な言い換え「~は絶対にできない」

これらの言い換えが元の発言から含意されないことは、先のテストから明らかだ。なぜなら、次の各文には矛盾が見られないからである。

~である可能性は高いが、絶対に~であるわけではない。
~である可能性は低いが、けっして~ではないというわけではない。
~しない方がいいが、~してはならないというわけではない。
~は難しいが、絶対にできないというわけではない。

他人の話を聞くとき、私たちはその中の「何がどうした」という具体的な情報を担う部分に目を向けがちだ。しかし、その人がその情報の信憑性や実現の可能性などをどう捉えているかは、たいてい文の終わりあたりで表現される。不正確な情報を広げてしまわないためには、その部分にも十分に気をつける必要がある。

他人が自分の言葉に対して不正確な言い換えをすると非常に気になるが、自分が他人に対して同じことをしているときは、なかなか気づくことができないものだ。自分が勝手な言い換えをする側にならないためにも、迷ったときはここで使ったテストを活用してみるといいかもしれない。

「話がかみ合わない」ケーススタディ

言葉の意味について、他人と意見が一致しないこともよくある。次の相談を見ていただきたい。

【相談】先日、友人二人(A、B)とタピオカドリンクを飲みながら、以下のような軽い言い合いをしてしまいました。今でもモヤモヤするのですが、私たちの会話はどうすれ違っていたんでしょうか?

【私】ねえねえ、『タピる』と『タピオカを飲む』って、同じ意味だよね?

【友人A】違うよ。『タピる』は若い人しか言わないし。

【私】いや、だからさ、そういうことじゃなくて、『タピる』と『タピオカを飲む』って同じ意味だよね?

【友人A】違うって。『タピる』って言うと、『私は若いです』って言っていることになるけど、『タピオカを飲む』って言っても別にそういうことにならないじゃん。

【友人B】いや、Aはおかしい。『タピる』って言ったって、『私は若いです』って言っていることにはならないよ。誰かが『タピる』って言っているのを聞くと『あ、この人若いな』って思うけど、それは言葉のニュアンスであって、意味じゃないよ。

【私】やっぱりそうだよね! 結局、『タピる』は『タピオカを飲む』っていう意味しかないよね?

【友人B】いや、あんたも間違っている。『タピる』っていうのは単にタピオカを飲むことじゃなくて、友達と一緒に流行りのタピオカ屋に行って、タピオカを飲みながらおしゃべりすることだよ。そこまでやらないと『タピる』とは言えない。

【私】えー、それは違うんじゃない?

【友人B】いいや、絶対そう。私はその意味以外、認めないから

【友人A】私はBが言う意味なんか認めないからね。『タピる』には絶対、『私は若い』っていう意味もあるんだから!

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世の中、噛み合わない議論は多く存在するが、この相談者と友人たちの議論もその一つだと言える。原因は、三人が「タピる」という言葉に対して異なる受け止め方をしていることだ。

とくに流行り言葉や新しい言葉というのは、人々の間で意味や用法が一致しないことがよくある。こういう場合、誰の理解の仕方が正しいかを決めるのは容易ではないが、少なくとも自分や他人がどういう受け止め方をしているかをある程度明確にすることはできる。ここでは、「含意される内容かどうかを判定するテスト」および「同じ意味かどうかを判定するテスト」を利用して、相談の中に出てきた三つの意見を整理してみたい。