シャープの失敗で、「1億円減資」は禁じ手だったが…

業界内でもっとも受注額の多いJTBは社員の給与水準も高い。また、業界トップとして、GoToキャンペーンでも主導権を握り、その恩恵を受けている。「コロナで存亡の危機にある」からといって、中小企業と同じように税制上の優遇措置の恩恵にあやかるのはどうかという声は経済界で少なくない。

かつて、この減資による“税金逃れ”で世間の批判が高まったことがあった。シャープの事案だ。2015年当時、韓国勢などとの液晶テレビなどの競争激化でグループ全体の前期最終赤字が2223億円に膨らみ、破綻の危機に直面した。その際、状況を打開すべく画策したのが減資だった。1218億円の資本金を1億円に減らし、中小企業化による節税を狙ったのだ。

この動きに対し、経済界から批判が続出。宮澤洋一経済産業相(当時)も「企業再生としては違和感がある」と批判。結局、減資は5億円までに留まり、節税による業績底上げ策は失敗した。

その後、税制の優遇にありつこうとする大企業の中小企業化は、「禁じ手」として忌避されてきたが、JTBは、コロナ禍を口実に、そのタブーを破ってしまった。

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旅行業界は「二階―菅ライン」にすがるしかない

さらにJTBは日本政策投資銀行への資金支援も要請している。同行の「危機対応融資」に加えて新たに設けられた500億円のファンドから「優先株」の出資を受けられる仕組みを活用しようというのだ。前年の3倍の2.8兆円に増額された「危機対応融資」も繰り出して、まさに飲食・宿泊・旅行業の「駆け込み寺」と化した政投銀にすがるなど、使える手はいくらでも使おうとしている。

今や風前の灯火であるJTBやKNT-CTホールディングスなど旅行業界がすがるのは「観光業界に影響力を持つ自民党と政府の二階―菅ラインしかなくなった」(JTB幹部)とされる。

禁じ手だった「資本金1億円への減資」や政投銀の優先株引き受けなどについて、シャープのときのような批判は政府・与党内ではみられない。それどころか国民の半分以上が開催に否定的な東京五輪についても政府は実施する方針を堅持している。

それ以外にもコロナ禍で消えたと思われた統合型リゾート(IR)事業も最近になって動きが出てきた。その一つが二階氏のお膝元である和歌山県だ。6月2日、同県の仁坂吉伸知事は県内に誘致を進めているIRの事業候補者にカナダのクレアベスト・グループを選定したと発表した。大阪府や市、横浜市、長崎県などIR事業者の誘致を進めているが、運営事業者を選定したのは和歌山県が初だ。