「飲食・宿泊事業の審査ノウハウがあるとは思えない」

こうした動きに政府系金融機関のOBが「これは本来、日本政策金融公庫の案件でしょう。日本政策投資銀行には飲食・宿泊事業の審査ノウハウがあるとは思えないんですが……」と心配する。

というのは政投銀が官邸の意向を受けて3月末からコロナ禍で特に深刻な影響を受けている資本金10億円以上の飲食・宿泊などの事業者向けの金融支援策を開始したためだ。劣後ローンの供与はその中心となる施策で、金利は当初の3年間、民間金融機関よりも低い年1%に設定し、4年目以降も最大3%に抑える。

「民間金融機関が提供する劣後ローンは通常年4~5%の金利であることから、まさに破格な大盤振る舞いだ」(メガバンク幹部)。

また、政投銀は3月末に新型コロナ禍で打撃を受けた企業を支援するために飲食・宿泊業向けの支援ファンド「DBJ飲食・宿泊支援ファンド投資事業有限責任組合」を立ち上げ、中堅・大企業が発行する優先株を引き受け始めた。優先株は議決権がないかわりに配当が高い株式だ。企業にとって調達コストは高いが、経営の自由度は保たれる。

ワタミへの金融支援は政投銀のモデルケース

その政投銀ファンドの第一号案件でモデルケースとされるのが外食大手のワタミへの一連の金融支援だ。

ワタミは5月24日、政投銀が組成したファンドを通じて約120億円の資本増強を実施すると発表した。新型コロナウイルス感染拡大で悪化した財務基盤を強化するとともに店舗への投資に充てるなど、経営の立て直しに取り組む。

ワタミは居酒屋から焼き肉店などへの転換を進めており、調達した資本をもとに今後5年間で計画する計130店の新規出店や業態転換にも取り組む。

写真=時事通信フォト
ワタミオーガニックランドについて説明する渡辺美樹会長(中央)と、達増拓也岩手県知事(左)、戸羽太陸前高田市長(右)=2021年4月7日、岩手県陸前高田市

2008年のリーマンショックの時もそうだった。融資先の追加与信に二の足を踏む民間金融機関に代わって、急場の資金繰りを支えたのは、「国の政策を受け、一時的に経済合理性を離れて投融資できる」政府系金融機関だった。

リーマンショック直後から日本政策金融公庫と日本政策投資銀行がタッグを組んだ危機対応融資には、日産自動車(500億円程度)、三菱自動車(同)、富士重工業(100億円程度)、などの日本を代表する企業が殺到した。

結果、危機対応融資の当初枠1兆円は、2009年3月末までの4カ月弱で底をつくことが確実となったため、財務省は財務大臣の判断で予算額を最大1.5倍まで拡大できる「弾力条項」を発動し、年1兆円の予算枠に5000億円を追加したほどだった。そして、政投銀による資金供給枠は、低利融資やCP、さらに社債購入まで拡大され、最終的には資金枠は保証も含め15兆円規模にまで膨れ上がった。