「自衛隊によるワクチン接種」は厚労省も寝耳に水
自衛隊による新型コロナワクチンの「大規模接種」が5月24日から東京と大阪で始まった。65歳以上の高齢者を対象に初日は計7348人が接種を受け、最終的には東京で1日1万人、大阪で5000人の接種体制を敷く。首相の命令だけで法改正もなしに自衛隊を出動させたのは問題含みだが、ワクチン接種が遅々として進まないことに苛立った菅義偉首相が遂に自ら動き出した、ということだろう。
なにせ世論からは、コロナ対策が「遅々として進んでいない」と責められ、内閣支持率は急低下する動きを見せていた。秋の総裁選での菅後継候補を公然と話題にする自民党幹部が出始めるなど、菅首相はジワジワと追い込まれていた。「高齢者へのワクチン接種が順調に進むかどうかが、政権のアキレス腱になる」と自民党ベテラン議員は言う。
菅首相は4月27日に岸信夫防衛相を官邸に呼び、自衛隊によるワクチン接種を指示した。ワクチン接種を担ってきた厚労省にも、河野太郎・ワクチン担当相にも寝耳に水だったとされる。菅首相がしびれを切らしたのは、その段階でも3600万人いる高齢者のうち、1回目の接種が終わった人が1%にも満たなかったためだ。菅首相が「何としても7月末までに高齢者への接種を終わらせよ」と指示しても、「無理です」と言ってくる自治体が相次いだ。
「歯科医師による接種」を解禁して、医師会に圧力
もはや、厚労省が通達を出して、自治体を動かす、という手法では接種は進まないと菅首相は思ったのだろう。厚労省と河野大臣に任せてきた日本医師会への説得にも自ら乗り出し、接種手数料の上積みまで約束した。一方で、歯科医師による接種を解禁したうえ、薬剤師などの活用をブチ上げ、暗に医師会に圧力をかけた。「(医師会が求めた)手当を大幅に引き上げても動かないなら他にやらせる」。医師会が何としても死守したい「規制」に穴を開けるぞ、と迫ったわけだ。
首相は官邸に中川敏男・日本医師会長を招いた際に、日本看護協会の福井トシ子会長も同時に招いた。看護協会に対しても手当の大幅引き上げを約束した。一方で、自衛隊の大規模接種会場では自衛隊の「医官」80人と「看護官」ら200人を全国の駐屯地などから招集しただけでなく、医療従事者専門の民間人材サービス会社を使って民間看護師も200人集めてみせたのだ。看護師協会を通じた要請に頼らずとも人は集められると突きつけたに等しい。