ただし、長期の視点で考えると、未来永劫、米ドルが基軸通貨の地位を維持するかは分からない。その一つの要因として、中国政府は“デジタル人民元”の実証研究を進めている。中国共産党政権は社会と経済への統制を強めるために、国内の小売り分野を中心とするデジタル人民元の実用化を急いでいるように見える。2020年には、広東省深圳市や江蘇省蘇州市などでデジタル人民元の実証実験が実施された。

世界の基軸通貨という地位を保ちたい

すでに、カザフスタンなどの中央アジア地域では人民元の利用が増えている。その上でデジタル人民元を用いた観光や貿易が増えれば、利便性が評価されて一部の国や地域での人民元建ての取引は追加的に増える可能性がある。長めの目線で考えると、それが基軸通貨としてのドルの地位に何らかの変化をもたらす可能性は排除できない。

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また、価値が不安定な仮想通貨の代表である「ビットコイン」で“身代金”を要求するサイバー攻撃も増えている。パイプラインの稼働停止に追い込まれたコロニアル・パイプラインは、操業再開への着手のためにハッカーに約4億8000万円のビットコインを支払った。同社トップはその判断を「国のためだった」と述べた。

サイバー犯罪の取り締まりは容易ではなく、基軸通貨であるドルのデジタル化に関する研究の推進は、国際通貨体制の透明性と安定性向上に重要といえる。FRBはドルが世界の信認を得ている状況を活かして、安全性と信頼性の高いデジタルドルに関する研究を進め、基軸通貨の地位を維持しようとしていると考えられる。

日本も乗り遅れてはいけない

2020年10月、日銀、FRB、カナダ銀行、欧州中央銀行(ECB)、スウェーデン・リクスバンク、スイス国民銀行、イングランド銀行(BOE)と国際決済銀行(BIS)は、中央銀行デジタル通貨に関する報告書を公表し、各国が国際協調をベースにCBDC研究を行うことを記した。なお、現金の流通が減少しているスウェーデンを除き、日米をはじめ主要先進国の中央銀行は、近い将来、デジタル通貨を発行する計画はないが、調査や研究は進めるスタンスだ。

FRBによるデジタルドル研究は、主要先進国の中央銀行デジタル通貨に関する研究に相応の影響を与えるだろう。そうした変化に対応するために、日本銀行が中心となり、より積極的に各国の中央銀行や民間金融機関、一般企業などとの研究や実証実験が行われるべきだ。