商品開発と同時に、売っていくための準備も2~3カ月かけて行っていただきました。SNSの運用、顧客管理、弁当販売に特化したHPの整備などです。
寺村社長は語ります。
「外食とデリバリーでは、同じ食べ物を扱う業態でも、考え方も実際の工程もまったく違います。私の頭の中がデリバリーになりきっていなかったので、その意識を変えることに時間が必要でしたね。これまで外食では、時間をかけてこだわってきれいなもの、よりおいしいものをつくる、に8~9割の労力をかけていました。それをデリバリーでは“速く”に意識を変えることになりました」
「外食のスピード感では、一度に大量生産するデリバリーのそれに対応できないからです。弁当の中身に関しても、意識が変わるまではうまくいきませんでした。弁当を3種類作成するとして、バラエティに富んだものを、1つずつまったく違うものがいい、と思っていたのですが、多くの注文が入ってくると、その形では製造に時間がかかり、対応できないのです」
「デリバリーのスピード感で回していくためには、弁当箱は統一する、仕込みもある程度同じにし、一部食材のみ違う形がいいとわかったころに、『これがデリバリーなんだ』と少し意識を変えられたように感じました」
店の命運を懸けた“大和牛ローストビーフ弁当”
そうして完成した弁当は、大和牛や奈良県産野菜など、奈良県の食材をふんだんに盛り込んで作ることにこだわっています。
コロナの影響で飲食店は苦しいですが、苦境なのはお店と取引する卸売業者や生産者も同じです。急にお店から要らないと言われても、そんな簡単に生産量は変えられません。生産者を支える思いも、弁当に込めています。
看板メニューは20品目彩り野菜と藁燻焼き弁当のシリーズで、どれもパッケージは同じ、使用している野菜は同じで、メインのローストビーフとローストポーク、地鶏のローストチキンだけを違う形にしています。
配達範囲は奈良市内としました。そこまで広げることで、周辺に住民がいない立地のデメリットも解消できます。
「店舗開発に関しても、これまでは『こういう店をやりたい』と考えて、周りにライバル店はいないかといったことだけに目を向けていましたが、『デリバリーでしっかり売り上げるためには、それではダメだ』とも気づきました。『どういうものに需要があるか』で考えていく必要がある、そこも意識が変わりました」(寺村社長)