町議「しっかりとした議論なく決めてしまった」

一方で、このイカのモニュメントのように、各地で感染症対策との直接的な関連の有無や活用法の是非が問われるケースも見られた。千葉県白井市は、市内の公園39カ所に感染症対策への協力を呼びかける看板設置費に約3000万円を充てる予算を昨年12月の市議会に提案し可決。しかし「医療従事者支援など他に使い道がある」と反対する市民らのグループが中止を求める約1900人分の署名を市に提出している。

財務省の昨年11月の財政制度等審議会の分科会でも、問題視する声が上がった。国が示した活用例以外の「ユニークな」取り組み例として、ごみ袋配布、花火大会開催、スキー場のライトアップ、ランドセル配布、公用車購入、駅前広場への屋根設置などを列挙。有識者からは「地方議会がチェックを果たすべきだ」「適切に使われているか検証が必要」などの意見が相次いだ。

撮影=加藤豊大
イカの駅つくモールが面する日本百景の九十九湾」2021年5月14日撮影。

不適切な活用例が出た背景には、予算案を可決した地方議会のチェック機能の不全が大きな問題としてある。イカモニュメントの設置予算が可決された昨年7月の能登町議会一般質問では、町議らからモニュメントに関する話題が上がらなかった。ある町議は完成後「ここまで大ごとになるとは予想していなかった。国の活用例に合っていると判断し、しっかりとした議論なく決めてしまった」と反省した。

「国からの交付金は、使えるものなら使ってしまおう」

別の町議も「町から出された予算案を、深く審議せず通してしまう雰囲気がこれまでもあった。当選を重ねる中で『なあなあ』になり、初心を忘れてしまった議員も多いのではないか」と打ち明ける。加えて「過疎化や人口減少が進み自主財源が縮小し続ける町では、『国からの交付金は使えるものなら、もらえるものなら使ってしまおう』との意識もあった」と言う。

地方自治体に巣くうこうしたモラルの欠如による慢性的なチェック機能不全が今回、露出した形だ。

全国で臨時交付金の使い道が議論となる中、この巨大イカのモニュメントがとりわけ海外に波及するまでの大騒ぎになったのはなぜか。SNSで話題を発信した都内の30代男性は、取材に「他の地味な活用事例と違って写真のインパクトもあり、ネットやテレビで『ネタ』にされやすい題材だったのでは」と分析する。

海外でも同様の視点があるようだ。5月上旬にイカの駅を取材に訪れた、ドイツのニュース制作会社「ラプリーTV」に所属する日本人の女性記者(43)も「ヨーロッパでは、感染症対策の交付金との是非としての論点に加え、フィギュア文化が根付く日本ならではのカルチャーとして捉えて面白がっている側面がある」と指摘した。