「自分たちの仕事の8割は捨てる仕事だ」

大きく見た目の良いりんごを作るために、花が10咲けば、そのうちの8摘み取り、さらに実を付けたうちの10から、また8をピンポン玉くらいの大きさの時に摘み取る。「もったいない」と思うのは「よそもの」の発想で、農家の人たちにとってはすこしでも大きく見た目のよいりんごを育てるための当たり前の作業。袋をかけたり全体にまんべんなく光が当たって赤くなるように調整したり、かける手間は多大なもので、「自分たちの仕事の8割は捨てる仕事だ」という言葉も聞きました。

青森駅に隣接するシードル工房「A-FACTORY」。シードルからアップルブランデーまでを作る工程がガラス越しに見える。(Interior Design=Wonderwall Photo=KOZO TAKAYAMA)

農家の方々は、リンゴを規格の上位の形に育て上げ、高い価格で出荷しようと努力しています。しかし「よそもの」から見ると、「全部のりんごで大きさや見た目を追求しなくてもいいのでは」「小さかったり、傷がついてしまったリンゴであっても、付加価値のつく加工での使い道はあるのでは」と感じたのです。

産地の常識では「大きく育てて高く売る」ことがりんご農家のやるべき仕事。その中でできてしまう小さいものは「二束三文で売るか、価格が合わなければ捨てるしかない」。そして、きれいで大きく育てるための重労働から廃業も増えているという状況。ここからおもしろいことができるのではないか、という思いがシードル工房の発想につながりました。

建築デザインとインテリアデザインは世界的に有名なワンダーウォール片山正通さん。個性的な建物も青い海の背景に溶け込み、おしゃれな空間でシードルの製造を見ながら飲み比べができるコーナーも人気です。今では青森県内だけで30近いシードル工房ができ、新規のいずれもが小規模で個性ある味を造りだしています。今ではシードルは地元の名産品に育ち、観光客だけでなく地元の若い人たちにも人気の定番商品に育っています。

「もったいない」ものがたくさんある

青森のリンゴに限らず日本には、素材への少しの工夫で、新たな顧客接点の可能性があると感じます。地域にはそんな価値と魅力に溢れた素材や文化がたくさんあります。

鎌田由美子さん(撮影=市来朋久)

そういった、日本のこれまで培ってきたものの本質は、SDGsやエシカルといった、これから世界的にますます重要になる価値感にもぴったりです。「もったいない」という言葉が一時、日本が世界に打ち出すべき伝統的価値観である、として注目を浴びました。しかし、日本でも食料廃棄問題は大きく、家庭だけでなく、産地での、味にも品質にも何も問題がないのに「規格外」だからという理由で見向きもされない「もったいない」ものがたくさんあります。

このSDGs、日本でもファッション誌の表紙を飾るようになり、すこしブーム的なきらいも指摘されています。賛否はありますが、日常の中でこういった言葉が当たり前になることに、個人的にはいいことだと感じています。しかし、フェアトレードやアニマルウェルフェアなどの倫理的視点に基づいた商品が、価格面でも日常になるのにはまだ少し時間がかかりそうな感じがします。