【藤井】高橋是清やルーズベルトのやり方を、いま実践しているのは中国です。ケインズ経済学をずっと発展させた進化形ケインズ理論が、いまのMMT=現代貨幣理論。
習近平は事実上MMTと同様の内容を勉強し、MMTに基づいて財政政策を展開しているといいうる状況にあります。一帯一路で“中国版大ニューディール政策”をやっている。池田勇人の所得倍増計画や、田中角栄の列島改造論など、高度成長までの日本も、徹底的にインフラ政策をやって成長を目指す経済モデルでした。
麻生太郎内閣と民主党内閣の共通点
【田原】そもそもプライマリーバランスを重視して、毎年その赤字を減らしていくべきだという考え方を、財務省はいつから始めたんですか?
【藤井】大蔵省時代には、その概念は明確にはありませんでした。言い出したのは、省庁再編で大蔵省が財務省になった翌2002年、当時小泉内閣で経済財政政策担当大臣だった竹中平蔵さんです。
【田原】竹中さんは、GDPの5%程度(28兆円)を占めていたプライマリーバランスの赤字を「10年で黒字化する」といった。増税せずに、2007年にGDP比1%ちょっとの6兆円まで改善したんだけど、リーマンショックでダメになっちゃった。竹中さんは成長重視で増税反対。それを貫いてプライマリーバランスの黒字化目前まで持っていったことを誇りに思い、もうちょっとで実現できたのにと、とても残念がっていました。
【藤井】竹中さんの時代、たしかにプライマリーバランスの赤字はどんどん減っていましたが、それができたのは当時アメリカの景気が良く輸出が伸びたから。あのとき、プライマリーバランスの黒字化なんていわずに徹底的に財政政策をやっていたら、デフレ脱却ができたはず。竹中さんは誇りに思っているとしたら完全に状況認識を誤ってますね。プライマリーバランス赤字を減らすなんて最悪の手を打ったがゆえに、せっかくの輸出増という僥倖をみすみす見過ごし、デフレが続く最悪の帰結をもたらしたのです。彼は誇りに思うのではなく、痛恨の思いを持つべきなんです。
ただ、そんなプライマリーバランス規律ですが、それを少なくともいったん解除することに成功したのが麻生政権。彼はリーマンショック対策で、積極財政を展開するために、プライマリーバランス規律を解除したのです。ここから積極的な財政出動が始まり、続く民主党政権もプライマリーバランスの縛りがなかった。民主党政権は、マニフェストを全部やるといって、すごくカネを使ったんです。結果的には、これが日本経済にとってよかった。