もらった名刺をまとめて捨てる担当課長

私も建設コンサルタント業に従事していたころ、役所の担当者の理不尽な要求や仕打ちに何度にがい思いをさせられたことか。

真山剛『非正規介護職員ヨボヨボ日記』(三五館シンシャ)

公共事業の受注機会を増やすために、役所回りをしていた時期がある。夕方ごろになると、役所の担当者の机の上には一面に営業で訪れた人の名刺が置かれていた。私が空いた隙間に名刺を差し出したそのとき土木部担当のM係長が帰ってきた。

「名刺よろしいでしょうか?」。本人がいる手前、ひとまず挨拶すると彼が顎で置けと合図した。私が机の上に名刺を置いたのを見届けると、彼は机の上のすべての名刺をかき集め輪ゴムでくくると、そのままポイとゴミ箱に投げ捨てた。当然、私の名刺も。

彼はその後、何事もなかったようにタオルで顔の汗を拭いていた。それから4カ月経った年明けの2月、土木事務所の人事課の課長から私の会社に電話があった。どうしても3名ほど、退職後の受け入れ先、つまり天下り先が決まらない人がいるという。あなたの会社で雇ってもらえないか、という打診だった。

一般に役所OBを雇うと、その会社の入札指名数が増える。それは官と民の間にある暗黙のルールだった。OBの面倒をみてくれた見返りに、お土産と称して入札の機会を増やすという決まりごと。それが何十年も悪しき慣例として続いてきたのである。

経験は人を鈍感にさせてしまうケースがある

3名の名前を聞いてすぐに合点した。業者いじめは当たり前、自分の仕事が遅いことを棚に上げて、業者に責任を押しつける、そのくせいつも威張っている評判の悪い役人たち。その中に例の名刺を捨てたM係長も入っていた。

「うちみたいな小さな会社じゃ、恐れ多くてM係長みたいな立派なOBは雇えないです」。皮肉たっぷりに断った。ところがそれから2カ月後、周りの退職者にひと月以上遅れて彼はある建設コンサルタントに天下っていた。

というよりもその会社は役所から余り物の彼を押しつけられた恰好だった。その会社の入札指名が増えることはなかった。いやむしろ減ったくらいだ。

彼は役所の現職の後輩からも評判が悪かったらしい。そんな煮ても焼いても食えない人間はどの業界にもいる。だから私は多少、施設の老人たちから無理を言われても笑ってやりすごす自信がある。経験が人を育てるのではなく、むしろ鈍感にしてしまうケースもあるのだと私は感じている。

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