ミスを想定しての準備
予想外のことに胸が締め付けられていた私が驚いたのは、その後の松山の行動だ。競技委員を呼び、しっかりとドロップ位置を確認してロングアプローチを放った。狙い通りのグリーンエッジでボギーに収めた。
冷静な松山のトラブル処理。それはあの16番の池縁からアプローチの練習をしていたことに起因していた。つまり、池に入れることをあらかじめ想定していたのだ。
確かに一昔前は長いクラブでしか2オンを狙えずに16番の池に入れることはあったが、今はショートアイアンでもグリーンを狙える時代。松山が池を想定していたとは考えられなかった。しかし、そうであれば3日目の18番のグリーン奥からのアプローチも練習していたことになる。
松山は試合前に言っていた。「しっかりと準備したいと思います」と。
この言葉は我々が想像だにしない場所からであっても、松山にとっては僅かでもあり得るのであれば練習していたことになる。「ゴルフはミスのゲーム」と言ったのは青木功だが、まさに起きうるあらゆるミスを想定しての準備だった。だからこそ、異常事態であっても動じなかったのである。
最後まで自分を信じ切れた絶対的な自信
松山のマスターズ優勝は奇跡ではない。
もちろん13番の2つの幸運があったからと言う人もいるだろう。しかし、その幸運は誰よりも遅くまで練習をしてきた松山の一途な姿を神様が見ていたからであろうし、それ以上に壮絶な練習とトレーニングを積んで磨き鍛え上げてきた技と体力、さらに入念な準備から生じる、自分自身への信頼の賜であったことは事実だろう。最後まで自分を信じ切れた絶対的な自信が、マスターズ優勝を現実のものにさせたのである。
それは松山流の「オールドマンパー」の構築であり、これを造り上げたからにはボビー・ジョーンズのような破竹のメジャー優勝、グランドスラム達成も大いにあり得ることであると、私は信じるのである。