服部さんを含め、全員が無給のボランティア

「猫同士が“助け合う”感じですね」

私の心配を察知したように、服部さんが言う。

「譲渡金は4万円ですが、最初のワクチン接種や検査などの初期医療は、2万5000円あれば足ります。つまり健康な猫なら、譲渡金4万円からおつりがくる。そのあまりを、他の猫が体調を崩した時の治療費にまわすんです。餌代? ああそれはもちろんかかりますね。でも、餌などの物資を寄付してくださる方もいますから。もちろん、なかなか譲渡されず、長くこの『ケット・シー』にいる猫ほど、餌、トイレ、光熱費など日々の生活でお金がかかってしまいます。でも今は、月間の活動支援金が50万円くらいありますから大丈夫」

猫カフェでもあるケット・シーの入場料は1時間1100円。これが「サポートマネー」(活動支援金)になっているが、収益は月20万円程度。組織運営の要となるのは、1匹4万円の「譲渡金」である。

だが、テナント料(家賃)が月20万円、銀行から借りた開業費500万円の返済額が月7万1000円だから、通常のビジネスとして考えれば赤字だろう。

なぜケット・シーはまわっているのか。それは“人件費ゼロ円”だからだ。服部さんを含め、全員が無給のボランティアなのである。

ノネコを2カ月ほど自宅で飼育する「預かりさん」

開業時に7人だったボランティアは、今では50人に増えた。そのため服部さんも美容師の仕事時間を増やせるようになり、店に関わるのは猫の譲渡など重要な場面だけになっている。

ケット・シーを支えるボランティアとはどんな人たちなのだろう。奄美大島のノネコを2カ月ほど自宅で飼育し、カフェに預けられる状態にする「預かりさん」を務める岩﨑日登美さんは、服部さんと2018年11月に出会った。服部さんが奄美大島にいた野良猫4匹の飼い主をSNSで募集していた時だったという。

撮影=笹井恵里子
「ケット・シー」を開いた服部由佳さん(右)と「預かりさん」を務める岩﨑日登美さん

「募集を見て、そのうちの1匹を飼いたいと思い、面談を申し込みました。でもその時、主人の膝にほかの猫たちがのっていたんです。選べなくて、4匹まとめてわが家で引き取りました。黒と白の猫たちで“オセロ兄弟”と名付けられていたんですよ。その後、交流が続いて、服部さんがこのカフェをやりますと言ったので、協力したいと思いました。“幸せな猫”を増やしたい、と」

写真提供=岩﨑日登美さん
「オセロ兄弟」とふれあう岩﨑さんご夫婦