中国も「寝耳に水」であった可能性

欧州への拡張志向を強める中国は、その足掛かりとして中東欧諸国、とりわけモンテネグロが含まれる西バルカン諸国(アルバニア、ボスニアヘルツェゴビナ、コソボ、北マケドニア、セルビア)を戦略的に重視してきた。まだEUに加盟していない西バルカン諸国は、EUにとっていわば制度的な空白地帯であり、付け入る余地が大きかったためだ。

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中国は中東欧16カ国にギリシャを入れた17カ国との間で、通称「17+1」と呼ばれる経済協力関係の構築を試みた。中国は中東欧諸国のインフラ開発に協力すると約束したが、結局は順調に進まず、EUの影響力が強いバルト三国を中心にこの枠組みから離反する国々も出てきた。「17+1」構想はもはや風前の灯とさえいえるかもしれない。

中国にとってこのモンテネグロへのインフラ開発支援は、いわば「17+1」のシンボル的な存在だったとされる。モンテネグロでの経験を他の中東欧諸国への伸長に活かすことが目指されたが、今回、モンテネグロがEUに対して支援を要請したことは、中国にとってもある意味では「寝耳に水」であった可能性が高いと考えられる。

実際、モンテネグロは2021年の借換に備えて昨年末に7億5000万ユーロの起債を終えていた。また3月初めにモンテネグロは中国からシノファーム社製の新型コロナワクチンの援助を受け、ズドラヴコ・クリヴォカピッチ首相が会談で中国の刘晋(リウ・ジン)大使に対して感謝の意を表するなど、両国関係は決して悪くなかった。

欧州の小国・モンテネグロのしたたかさ

実際、今回のモンテネグロがEUに支援を要請した背景には、融資の借換の交渉に当たって中国から有利な条件を引き出そうとするモンテネグロ側の思惑があったと考えられる。同時にモンテネグロは、EUにも圧力を与えることで2025年に予定されているEU加盟に向けた交渉を有利に進めようという腹積もりがあったと推察される。

EUは近年、西バルカン諸国のEU加盟を重視する戦略を打ち出しておきながらも、それを裏切るような対応に終始し、西バルカン諸国の信頼を失ってきた。西バルカン諸国のEU加盟に疑義を呈したフランスのマクロン大統領の態度や、新型コロナ支援に二の足を踏み続けたEUの姿勢は、たしかに批判されて然るべきものだといえる。