維持手数料分が目減りするだけの人も

ところが「イデコ」の利用実態はというと、拠出した先に預貯金あるいは元本確保型保険を選択している残高比率は54%と、過半がゼロ金利前提のノーリターン商品なのです。この人たちは実質的には拠出金を運用に振り向けず、まったく増えない状態を好んで選んでいることになります。たとえば一般的な銀行の「イデコ」だと、年間6000~8000円程度の維持手数料が控除されるため、毎年その分だけ拠出残高が目減りすることを看過しているわけです。

繰り返しますが、「イデコ」はしっかりと長期運用して将来に向けお金を育てていくために創設された制度であって、お金を育ててこそ長期運用益の非課税特典が活かせるのです。なかんずく年間所得がない人(=節税効果が見込めない人)にとっては、「イデコ」で積み立てながらも運用益を出していないなら、毎年維持手数料をドブに捨てているだけの残念な状況を自ら選んでいることになってしまいます。

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企業型DCも拠出総額の過半がノーリターン商品

さて企業型DCでも課題は同様で、拠出総額13兆5000億円(2020年3月末)のうち過半が預貯金と元本確保型保険になっています。企業型DCの場合、これらを選んでいるケースでは運用におけるリスクを極度に嫌っている人だけでなく、きっと当該制度が一体何なのかという根本さえ理解していない、関心がない人たちが少なからずいるはずで、知らないことがより深刻なのです。

そもそも日本における企業型DCは、企業退職金制度としての確定給付型(DB)から、会社都合による移行需要によって導入が普及してきた経緯があります。DBは企業側が従業員に将来給付する退職金を予定通りの金額で支給するため、その額を満たすために必要な予定利率を会社側が約束して従業員の代わりに運用していく制度です。しかし、ここ数十年にわたるゼロ金利時代で、予定運用利回りの達成が困難になってきたことにより、運用責任を従業員各自の主体性に委ねることを目的にDCへシフトしたわけです。

したがって会社型DCの制度下では、各人が自己の判断と責任できちんと長期運用しないままならば、本来DB制度下で想定されていた退職金額に対し、大幅に不足したままになっていることに、当事者は気付かないといけないのです。